嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

山ん中にねぇ、恐【おっそ】ろしか欲の深か

婆ちゃんのおらしたちゅう。そいで、

お釈迦さんなねぇ、この婆ちゃんな可愛そうだなあ、

て思うて、私も弟子にあの婆ちゃんを、

もう年で何時【いつ】かは死なんばらん。

自分な弟子にしたいて、

お釈迦さんな思うとんさったて。

【お釈迦さんな死んでおんしゃらんとよう。

そいどん、仏さんなおんしゃわけねぇ。】そいで、

「あの、一度お寺に、

あの婆ちゃんば連れて来るように」て言うて、

自分の側にいる弟子に言んさったて。

そいぎ弟子が行たてみたでしょうもん、

その婆ちゃん方に。あったぎ婆ちゃんな、

雨戸まで閉めきっておったもんじゃい、

ぼたもち作いの最中じゃったて。

ぼたもち作いおらしたて。

そいで、婆ちゃんの

おっばいのうてわかったもんじゃい、

「婆ちゃん、婆ちゃん。用事で来たとよう」

て言うて、外から言いよったぎねぇ、

婆ちゃんが言うには、

「今は忙しいんで、後にしてくれぇ」て、

喚【おめ】いたて。

そいぎ弟子は、こりゃなかなか戸は

開けてくれんばいにゃあ、と思うて、今度はねぇ、

弟子が、

「婆ちゃんのぼたもちはいらんが、

白い柔らかっか餅ばやろうと思うて、

折角来たのに」て、こう言うたぎぃ、

あったぎ戸ばガラッと、

婆ちゃんが開けたもんじゃい、今んうちと思うて、

早【はよ】う家の中【なき】ゃあ入って、

ぼたもちば二つ串に刺【し】ゃあて、

弟子はお寺に駆けて一目散に駆け出【じ】ゃあたて。

そいぎ婆ちゃんな欲の深かもんじゃけん、

「俺【おい】のぼたもちばおっ盗【と】ってぇ」

て言うて、ぼたもちば追いかけて、

お寺までもドンドンやって走って来てしもうたて。

あったぎぃ、そけぇはにこやかなお釈迦様が

立っておられたちゅうもんねぇ。その後ろにゃ、

如来様が可愛かごたっ黄色い光りがさしとったて。

そいがフワーッて、婆ちゃんを包んだて。

あったぎ婆ちゃんは欲の皮はズラーッと、

そん時溶けたちゅう。婆ちゃんは、

「こんなお寺は、心の安らぐ所やろうかあ」て、

そん時初めて思い付【ち】いたて。

そうして、あの、ぼたもち婆ちゃんはね、

それからほんな心の安らかなお寺さんということで、

お寺詣りもすることになったちゅう。

そいばっきゃ。

[一〇四 本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P378)

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