嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 殿様がお出でになる時、そいぎぃ、

「困ったにゃあ。塵も一つもなかごとせんばとけぇ、

困ったにゃあ」て、言いよったぎぃ、そん時、

坊さんが通いかかって、

「心配せんでいい。明日【あした】

うんと寒か日にしてやる」ち言【ゅ】うて、

くださったて。そいぎぃ、

「殿さんもそぎゃん寒い日ないば、

縮こまって外さい出じ見回って歩きらっさんけん、

大丈夫」て。

「私に任せときなさい」て言うて、坊さんが。

「そがん、急に寒か日はできますか」

「いや、大丈夫。任せときなさい」て、

言んしゃったて。

そうしたところが、あくる日は、

恐ろしか寒い日で雪がチラチラ、チラチラ、

綿ばちぎったごと降ってきて、

真っ白く村いっぱいおし包んでしもうたて。

「ああ、雪が降った、降った。雪は楽しいなあ」

ち言【ゅ】うて、

大人も子供も喜んで美しい眺めに喜んだて。

ところが、お触れがあってねぇ、

殿様は余【あんま】い寒かけん

中止ちゅうことの触れ回されたて。そいぎぃ、

庄屋さん方にお坊さんが泊まっとっさったいどん、

「お礼ば言わんばにゃあ。

ぎゃんしてお触れのあったけん」て、

寝床ば捜してみんさったぎぃ、

もう寝床は冷とうして、

お坊さんの姿は何処【どこ】にもなかったて。

そいばっきゃ。

[一〇三  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P377)

標準語版 TOPへ