嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

小【こま】ーか島にねぇ。

島だったから、食べ物【もん】が

いちばんに足【た】らんごとないよったてぇ。

そいぎぃ、

船で一年に一回だけ食べ物やら日用品を

船が積んで運んできてくいよったて。

その島におった一【ひと】人【い】のお婆さんが、

海が荒れて来【こ】んばらん船がなかなか来んて

じゃんもん。

そいぎぃ、

山に行たて、あの、山芋取って来ては、

それを食べて暮らしおったいどん、

その日も、船ももう海が荒れて

何時【いつ】来【く】っかわからんゃあ、

ぎゃんセッセと山芋掘っておったいどん、

何時【いつ】船の来っかわからん。

もう山さいしゃあが【山ニサヘ登っぎぃ、

ほんに沖ばっかい見おらしたぎぃ、

船らしかとの来おったてぇ。

そいぎねぇ、

島の者達の、

「船が来たぞー。船が見えたぞー」て言うて、

声もしたちゅうもん。

そいぎぃ、

そのお婆さんは山から転ぶごと降りて来たて。

その拍子に浜の海岸に山芋が、入れとったとの、

もう辺【あた】りそのへんいっぴゃあ、

バラバラバラで散らかったちゅうもんねぇ。

婆さんな駆けて来たもんじゃっけん。

そいぎぃ、

そのお婆さんは道に散らばった山芋に、

「えい、こんなまずい食べ物【もん】いらんぞうー。

えい、こぎゃんといんもんかあ」ち言【ゅ】うて、

足で踏みつけさしたて。

そいぎねぇ、その山芋に刺【とげ】が出きてきてさ、

お婆さんの足の裏にその刺がささったちゅうよう。

そうして、とうとうお婆さんな三日目に死んでしもうたちゅう。

今までさ、

その山芋のお陰命ばつないで、命が助かってきた

その山芋ば余【あんま】い急に粗末にしたもんだから、

皆が、

「その罰【ばち】だ。ほんなこて罰んきたとだ」と、言うたて。

そいばあっきゃ。

 [一〇五  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P378)

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