嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある所にねぇ、お爺さんが一(ひと)人(い)

暮らしおったて。そのお爺さんはねぇ、

大酒は飲んでは喧嘩はすっし、博打は打つし、

ほんに村ん者(もん)から嫌われ者でさ、

嫌(いや)がられて誰(だい)でんかんでん

寄いつかんじゃったて。

へんちくりんじゃったてばい。

そいぎぃ、このお爺さんがさ、正月の節分の日に、

皆豆ばまく時ゃ誰でん、

「福は内、鬼は外」て言うて、

撒くもんじゃい、俺(おり)ゃ、反対言うてまく。

そうして、へんちくりんじゃっけん、

「福は外、鬼は内」ち言(ゅ)うて、

豆を撒(み)ゃあたちゅうもん。あったぎぃ、

一時(いっとき)ばっかいしたぎぃ、

「こんばんは。こんばんは」ち言(ゅ)うて、

青鬼と赤鬼の、その来たちゅうよう。

お爺さんの家(うち)に。

そいぎぃ、猫一匹でん来たごとのなかったとこれぇ、

青鬼と赤鬼が来てくいたもんじゃい、

そのお爺さんは恐(おっそ)ろしゅう嬉しがってさ。

そうして、

「もう、さあ。鬼どんよう来てくれた。

腹が減っとったろう。ご飯でもいっぱい食え食え」

て言うて、爺さんな

恐ろしゅうほとめきんしゃったて。

そいぎぃ、鬼どまねぇ、

「そぎゃん言うてくるっとは、爺さんばっかいよう。

私(あたい)どんもねぇ、『鬼、鬼』ち言(ゅ)うて、

誰(だい)からでん嫌われ者(もん)」て、

爺さんに言うたてじゃっもんねぇ。

そうして、爺さんの食べて良かちゅうご飯ば、

いっぱいご馳走になってねぇ、

その鬼どんが言うには、

「爺さん、俺(おい)達がさ、

爺さんの金儲けをしんさっごとしてくりゅうかあ」

て、言うたてじゃっもんねぇ。そいぎぃ、

「爺さんな博打が好きじゃっもんじゃい、

俺達が賽子(さいころ)になって爺さんが博打うって、

そうて儲(もう)くっごとしてやろうだい」て言うて、

爺さんと話が決まったちゅう。

そいぎぃ、爺さんなねぇ、

賽子になった鬼どんば懐に入れて博打うちに

行かしたちゅうもん。「儲けさせてやって」て、

鬼から言われてさ。あったぎねぇ、

もう鬼もコロッと、

引っ繰い返って小(こま)ーか

賽子になったもんじゃい、爺さんそいば持って、

金儲けのでくっとないばと思うて、

好きな博打じゃあるし博打場に行きんしゃったて。

そうしてもう、博打ばすっぎもう、

面白い面白かごと勝ちなってじゃんもん、爺さんが。

そうしてもう、

博打場の金は全部(しっきゃ)どめ爺さんが

取ってしもうたて。そいぎぃ、博打場の親方がねぇ、

確(たし)きゃありゃ、いんちきしおっばい。

あの爺が、ぎゃん勝つはずはなかあ。

手下の者(もん)達にねぇ、

めくばせばして、そうして、

「あの爺さんが帰っ時ゃ、もういち殺さんば」て、

言うてから、帰いかけたぎんと、

後から追いかけて来て、

殴りかかって来たてぇ。

その博打場の親方の子分どんが。

あったぎねぇ、もう爺さんな

そぎゃん悪者(わるもん)どんに

じき負くっごとなったぎねぇ、

爺さんに懐の鬼どんがねぇ、

「俺(おい)達ば懐から出してさ、

爺さん一(ひと)人(い)、早(はよ)う

逃げろ、逃げろ」て、言うてじゃっもん。

そいぎぃ、お爺さんがその鬼ば出(じ)ゃあたぎぃ、

早速、青鬼と赤鬼となったもんじゃい、

とても手下どんは適(かな)うところじゃなかった。

もう、博打の親方どまもう、散々な目に合うて、

逃げらしたち。あったぎねぇ、

もう爺さんな帰っとったぎぃ、

じき鬼どんが帰って来たもんじゃい、

「あさん達のお陰、金儲けばさしてもろうて

良かったあ、有難う。さあ、

今夜は酒どん沢山(よんにゅう)飲んで

楽しくやろうでぇ」て言うて、

酒ば鬼どんに飲ませたて。そいぎぃ、

「ほんに、ぎゃん今年の節分は良かったあ」

て言うて、爺さんも喜んだいどん、鬼どんもね、

「爺さん、鬼にも良か節分じゃったけん、

また来年も頼むぞう。『鬼は内』て言うて、

豆を撒いてくれやあ」て言うて、

喜んで鬼どん帰って行たて。

そうして、爺さんなねぇ、その次ん年も、

また次ん年も、「福は外。鬼は内」て言うて、

豆撒きをしおったとこれぇ、そいから先ゃ鬼どま、

爺さんが待っとったいどん来んじゃったて。あん時、

一遍来てくいたて。

そいばあっきゃ。

[六五  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P344)

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