嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある村にさ、とても貧しい暮らしをしおった

お爺さんとお婆さんと仲良く暮らしとんさったてぇ。

そいで、この二人には子供がなかったもんじゃい、

何時(いつ)ーでん子供が近所から、

ワイワイ、ガヤガヤ遊びに来て、

爺さん所(とこ)何時ーでん

賑(にぎ)わいよったちゅうもん。そうして、

ちょうどねぇ、お腹(なか)の空いた時分はねぇ、

そん時分になっぎさ、団子ばお婆さんのねぇ、

子供達に作ってやんさっぎぃ、

ちっとでん太かとから食びゅうで思うて、

もう奪い合うて、

「早(はよ)う、俺(おい)が太かとば取ろう。

俺が太かとば取ろう」て言うて、そうしてもう、

子どんが団子ば貰(もり)ゃあよったて。

そいがねぇ、その子供ん中(なき)ゃあに、

たった一(ひと)人(い)が何時(いつ)もね、

早う手を出さじ残い物(もん)ばっかいしきゃ

貰わん子が一人おったて。今日もねぇ、

お婆さんが団子ば作って持って来たぎぃ、

もう賑やかこと賑やかこと、

「俺(おい)がとが太かばん」

「いんにゃ、俺がとが太か」て言うて、

早(はよ)う貰(もろ)うて賑やかに

食ぶっちゅうもんねぇ。

あいどん、あの子供はねぇ、

残い物ばっかい貰うとった子は、ジーッとしてまた、

いちばん残った小(こま)ーか団子ば、

「有難う」て言うて、貰ってそこでは食べじぃ、

じき団子ば貰うて我が家(え)さい

帰って来よったちゅうもん。

そうして、何時(いつ)もんごと

お母さんと二(ふた)人(い)で小ーか団子ば

半分して食べとったて。そいぎねぇ、今日もさ、

何時(いつ)もんごと団子ばさ、

もう残い物ば貰うて、

帰って半分してみたぎぃ、ピカーッち、

その団子ん中から光いもんのしたて。

光いもんのあったて。そいぎぃ、

今までぎゃん光っとば

見たごとなかったとこれにゃあ、と思うて、

良(ゆ)う見てみたぎ

その団子の中(なき)ゃあ、

小判の入っとったてよう。

団子から小判の出てきたてぇ。そいぎぃ、

子供とお母さんの驚いてさい、

あのお爺さんの家(うち)におろちいて

小判を返しぎゃ持って来たちゅうもん。

あったぎぃ、お爺さんがねぇ、

「そんな物(もん)が団子の中(なき)ゃ

入っとったですかあ。私(あたい)どんは

何(なーん)もそぎゃんことは知らじぃ、そいで、

あんた方のこの子供は何時(いつ)ーでん

余(あまい)い物(もん)ばっかい

取いおんしゃった」て。

「そいけん、感心に思うて

神さんがくんさったとばーい。こりゃあ、

あんた達んと」て言うて、

いっちょん取りあいんされんちゅうもん。

そいぎぃ、そのおっ母(か)さんと子供は喜んでね、

小判ばシッカイ握って帰って行きんしゃったてよ。

団子の中から小判の出たちゅう。

そいばあっきゃ。

[六六  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P345)

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