嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

村にお爺さんとお婆さんと、

一(ひと)人(い)の娘さんと、三人おんしゃったて。

そして、その娘さんの名前をおフクて、

付(ち)いとんしゃったちゅうもん。

ところが、ある時さ、山から鬼が来て、

「我が一人暮らしは寂しかけん、

そん娘さんを私(わし)にくれー」て。

「どうしてもくれ。

お前(まい)達がくれんぎいち食うてしまうぞ」て、

言うもんじゃい、お爺さんもお婆さんも、仕方なか、

困ったにゃあ、と思いつつ、

我がどんもうち食わるっぎ大変じゃっもんじゃい、

泣く泣く、

「おフク、嫁に行たてくいろねぇ。

すまんが嫁に行ってくれ」て、

おフクさんを嫁さんにやんしゃったて。そん時、

「おフクにはねぇ、何(なーん)も

持たせてやっとはなかいどん、

豆ば持って行きやーい」て。

「そいば、こいばねぇ、また帰たか時ゃ

山ん奥じゃろうけん、ズーッと落としてぇ行くぎぃ、

そいぎぃ、生(お)ゆっろうわからーん」ち言(ゅ)うて、

お爺さんの豆ば持たせてやんしゃったて。そいぎぃ、

おフクさんは言われたごと道にパラリ、パラーンち、

そん豆ば蒔(み)ゃあて行たちゅうよう。

そうして、鬼と暮らしておったぎ毎夜ねぇ、

家(うち)んことを思うぎ帰ろうごとしてたまらん。

ほんにお爺ちゃんもお婆ちゃんも、

どぎゃんしとんしゃろうかにゃあ、と思うぎもう、

帰といしゃたまらんごとなっとっもんじゃい、

川は洗濯行たついでにねぇ、

もうあっちん辺(にき)は家(うち)やろうかにゃあ、

て見おったぎさ、

まめのポツポツ植わとったちゅうもん、芽の出て。

あったぎぃ、こりゃあ、あん時落として来た豆。

こいば頼りにズーッと行くぎぃ、

家さい戻らるっばい。

こう、おフクさんが思うたもんじゃい、もう、

そいでもう、こいば頼りに行こうばい、と思うて、

もう豆の生(お)えたとば目印に、

かけてお家(うち)に帰らしたちゅう。

そいぎぃ、鬼は山から帰って、我が家(え)に来たぎ

おフクちゃんがいないもんじゃっけん、ありゃあ、

こりゃ爺さんの所へちい帰ったばい、と思うて、

もうじき迎いぎゃ行かんば、

俺(おい)も一人は徒然なか、と思うて、

そのお爺ちゃんとお婆ちゃんの所(とこ)さい、

「おフクが来とろう。返(かや)あてくんさい。

もう帰っても良かばーい」ち言(ゅ)うて、

迎いぎゃ行たぎぃ、お爺さんのさい、

豆ば持って来てね、

「鬼は外」て言うて、

投げつけんしゃったちゅうもん、

鬼に。そいば鬼はねぇ、ショボショボと悲しんで、

ションボリと山さい帰って行たちゅう。

その日が、ちょうど節分じゃったて。そいぎねぇ、

もう鬼の来んごと豆ば、「鬼は外ー」ち言(ゅ)うて、

投げつけよって。

そいばあっきゃ。

[六四  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P343)

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