嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 何(なん)か話ですよ。

私(わたし)ゃとびゃあて、話さんとのですよ。

その話をチョッとしょっちゅう、聞きおった話ですよ。

手前に話さじとびゃあたとのあります。

気分の、こうのらんぎね、急にそんなのを思い出さん。

気分ですよ、何時(いつ)でん思(おめ)ぇ出せちゅうぎぃ、

何時でも思ぇ出しきらん。

そいぎまあーだチョッと題を、

これは後から考えます。

むかーしむかしねぇ。

ある村でおっ母(か)さんが、

ここも昔は流行病(はやいやまい)があいよったとみえて、

ポックリ死んでしもうたあ。

そうして、ここには五つになる男の子と、

三つになる女の子が残された。

お父さんはほんにもう、二人おんもんじゃい不自由だもんだから。

とうとう二番おっ母(か)さんを迎えた。

ところが、この二番お母さんは、

もう二人のわからずやの一時(いっとき)来(き)たけん、

「もうほんに困っ」ち言(ゅ)うて、

もう苦情ばかい言うて、この子がおっため威張いちらしよったて。

そうしてねぇ、お父さんに嘆きバサバサ、

バサバサお父さんに言いおって。

そいばジーッと聞きよっぎねぇ、ああー、

お父さんに、その二番目に来たおっ母(か)さんが言うには、

「あぎゃん二(ふた)人(い)のわからずやのおっては、

もう邪魔で困っ」て。

「私(わたし)達二(ふた)人(い)

食ぶっとにようようして暮らしていきよるのに、

あの二(ふた)人(い)がおらんぎ良かいどん」て、

文句ばタラタラ、タラタラ毎晩言う。そいぎねぇ、

「あいーどん子供ばう捨(つ)っぎ困ー」て言うぎぃ、

「いんにゃさあ、

山に連れて行たてう捨(つ)っぎ

木の実どん食べて結構生きとっよう」こぎゃーん

おっ母(か)さんが言うもんじゃあ。

そいぎぃ、ある夜(よ)さいとうとう

お父さんもしびればきりゃあーて、

「そんならば、あの山にいっちょう捨(し)ちゅうかあ」て、

決めたところ、そぎゃん話おっとん男の子がねぇ、

小便(しょんべん)に立って隣(とない)の部屋で聞きよったて。

そいぎぃ、どうも子供は、ああ、二番目お母(か)さんの来てから、

もうしょっちゅうもう、

小言ばっかい言わるっか、

捨てらるっばいなあ、て思うたもんだから、

表(おもて)に出た拍子に表に、なるべく白かごた石ば、

もう沢山拾いおったて。そいぎねぇ、拾うておって、

あの、妹にもね、それをソーッと持たせとったぎぃ、じきあくる日は、

「今日はねぇ、二(ふた)人(い)を連れて山に焚き物(もん)取りに行く」て。

焚き物がちっともないから」言うて、

山に連れて行くていうことじゃった。

そうして、車の後ろに二(ふた)人(り)ば乗せて、

「山の奥へ奥へ」と言うて、

そのお父さんちお母さんと行くちゅうもんねぇ。そして、

「この辺(へん)でお前(まい)達、もう、遊んどれぇ。

母(かあ)ちゃんと父(とう)ちゃんは向こうの方で焚き物を取るから」て言うて、

向こーさん行ったらしか。

そいぎねぇ、男の子達はそのへんで木に登ったい、

かけっこしたいして遊んどったが、草臥れて草の上に昼寝して、

眠ってちぃしもうとった。

そうして、目覚みゃあてみたぎぃ、もうお月さんの出とったて。

「ありゃあ、夜にちいなったあ。怖(こわ)いー」て言うて、

妹の方は泣(にゃ)あたけど、兄ちゃんが、

「心配するな。僕があんたのズーッと来る時には、

あの石ば拾うたとば、あの、落としてズッと来たから、

あの石を目当てに帰ると家(うち)に帰るよ」て言うて、

妹を励ましてねぇ、そうして妹と二(ふた)人(い)ズーッと石を目当てに家(うち)さん帰ったて。

そうして、家(うち)に帰って、

「ただいまあー。父(とう)ちゃん母(かあ)ちゃん」ち言(ゅ)うて、

言うたぎねぇ、お母(っか)さんビーックイして、

「あがん山ん中(なっ)から、

お前(まい)達ゃどぎゃんして来たかあ」て言うて、

ビックイして、しとったて。そうして二(ふた)人(い)は帰って来たあーて。

ないどん(ケレドモ)、お父(とう)ちゃんは、

「良う帰って来たなあ。怖(こわ)かったろだーい」て言うて、

喜んだが、おっ母(か)さんは、

「ちぇっ、ちぃ帰って」て、言うっごたふうじゃった。

そいからまた、三日ばっかいした時、

まあーだ夜の明けんうち、暗かうちから、

「起きろう、起きろう。今日(きゅう)も山行くぞう。

焚き物取いぞ。起きんかあ」ち言(ゅ)うて、たたき起こされた。

そうして、この二(ふた)人(り)はまた大八車に乗せられて、

「山奥へー山奥へー」ち言(ゅ)うて、

この前よりもっともっともっと遠い山奥さぬあ、その車は行ったて。

ところが、男の子は今度(こんだ)は石ば拾うて準備する暇のなかったて、

突然じゃったもんだから。

そいで自分が握り飯を貰(もろ)うたご飯粒は、

こいを目当てに帰ろう、て思うて、

一粒こぼし二粒こぼし、ズーッと行った。

そうしてもう、恐ろしい長いこと、

一日中ぐらいかかって、山奥、奥山さん来て、

「ここん辺(たい)でお前(まえ)達遊んどれ。

自分達にゃあ向こーん方で薪を取っているから」て、

父ちゃんも母ちゃんも言うた。

一時(いっとき)ばっかい、木の枝がポキーポキーて、

音がしおった。そいぎぃ、この二(ふた)人(り)はまた遊んどったけれども、

疲れて草の上に、またこの前と同(おん)じに眠りこくってしもうた。

ヒョッと見てみたら、まあーだポキーポキーガサーて、

音のしおった。そいぎぃ、

まあーだ親達ゃ夜になっても薪を取ってるかなあ、

目覚みゃあーたぎぃ、どうやら日が傾いとったがあ、

と思うとったけど、

「父(とう)ーちゃん、母(かあ)ーちゃん」て呼んでも、

何(なーん)も声はせん。あらー、誰(だい)もおらんて思うと、

実はポキーポキーいいよっとは、

風が木ば揺すってガサーガサーて、

音のしおっただけじゃったて。そいぎ妹は、

「怖いー、怖いー」ち言(ゅ)うて、泣く。

でも、兄ちゃんは男の子じゃったけん、

「泣くな。そぎゃん泣くな。今度もねぇ、

あの飯(まんま)ばズーッと目印にこぼしてきたから、

じき帰らるっ」て言うて、慰めて、

そんなに言って妹も承知したて。

そうして、その飯粒が落ちてるもん、と思うて見てるけど、

一粒でん目(め)ぇかからんちゅうもんねぇ。

あったぎねぇ、この兄ちゃん達が車に乗せられて、

ご飯粒ば落とす後から野の小鳥達が、

「あらー、おご馳走のあったあ」て言うて、

ズーッと食べて来よったて。そいけん、

とうとうご飯粒は一粒でん目(め)ぇかからんやたって。

そいぎ右さん行き、左さん行き、とうとう道に迷うて、

もう夜になってしもうた。

「困ったなあ」て言うて、おったぎねぇ、

こうーして見おったぎぃ、

向―う方にボーッて、灯りの見ゆっちゅうもん。

「ありゃあ、あそこに灯いのあっけん家(うち)のあっばーい」ち言(ゅ)うて、

二(ふた)人(い)は元気が出てその方向にゃ行たて、

灯い目当てに谷の方さん行たてみたぎぃ、

表(おもて)に赤(あっ)か花の咲(し)ゃあとったてじゃもんねぇ。

真っ赤かったて。そうしてもう、葉までついとったて。

そいぎその葉に触ってみたぎポロッと、

取れたけん良(ゆ)う見たぎぃ、そりゃあ、お菓子でできとったて。

そいぎ二(ふた)人(り)ゃ朝ご飯もズッとこぼしてきて、

半分しか食べていなかったもんじゃ、お腹はペコペコじゃったけん、

「ありゃあ、お菓子の花ー、お菓子の葉っぱー」ち言(ゆ)うて、

ボリボリいって音させて食べよったぎぃ、

家(いえ)ん中(なっ)から婆ちゃんの声のしてね、

「俺(おい)のお菓子ば誰(だい)が食べよっかあ。

堪忍せんぞう」て、声のしたて。

そうして、出てきたとば見っぎ髪ちゅうぎザンバラザンバラして痩せぇこけた、

もう口の耳まで裂けた鬼婆さんやったて。

そいぎぃ、二(ふた)人(い)の子供は恐ろしゅうしてブルブル、

ブルブル震えとったぎねぇ、

その鬼婆は兄ちゃんの方ば荒縄の太かとでグルグルやってぇ、

柵のあっ犬小屋さん放り込んだて。

そうして、女の子ばジロジロ見て、

そうして女の子は柱に括(しば)りつけたて。

そうして言うことにゃ、

「味もこっけもなか(味もソッケナイ)ごと痩せた子は、

これぇ、じき食うてしゅんなか」ち言(ゅ)うて、

ボソボソその言いおったちゅうもんねぇ。

その鬼婆が、恐ろしかにゃあーと思うて、

声も出ん。そして婆が言うには、

「四、五日も美味(うま)い物食わせたら、

ちぃった太るじゃろう」言うて、

毎日お粥ばその女の子には食べさせてくいたて。そして、

「縄ば取るが逃げたら承知せんぞうー」て、

男は下の文句ば言いよったて。そして言うことにゃ、

また何(なん)てボソボソ言うから、良く耳をすましたら、

「あん男の子も痩せとんにゃあ。

大釜に湯どん滾(たぎ)らかせて、

そうして煮て食おうかあ」て、この婆ちゃんが、

鬼婆が、言いよったら、女の子は耳に入ったて。

そいで女の子に言うには、

「大釜に湯ば沸かすから、薪もこけあっから、

こいはシッカイ燃やせよう」て、言いつけた。

「焚け、もっと焚けぇ、もっと焚けぇ」て言うて、

鬼婆が言う。そいぎ女の子は、

「もう焚き物(もん)も側にないし、

どんなにして焚いていいかわからーん」ち言(ゅ)うて、

泣きかかったぎぃ、婆(ばば)がそいば見て、

「婆がよく焚くから、良う見とれー」て言うて、

あの、大釜のかかった子供(こどん)ん前にドッカとしゃがみこんで、

焚き物をその釜の下にくべらした。

こいば見たぎ女ん子はねぇ、ヒョッと思い出して、

自分の持ってるだけの力を出(じ)ゃあーて、

この婆を後ろからポーンと押したら、

大(おお)曲(く)突(ど)ん中に鬼婆は入(はい)って、

もう燃えてる火の中で丸焼けになって死んだて。

でも女の子にそんな勇気があるとは自分ながらにビックリして、

早速犬小屋に放り込まれてる兄さんば連れ出さんば、

と思うて、そこに行って、その犬小屋の戸を開けて兄さんを連れ出したて。

でも、鬼婆は死んだから、

鬼婆の家(うち)ん中に入(はい)ってみたら、

そこ辺(たい)たい中(じゅう)、宝物(たからもん)がいっぱいあったて。

そいぎねぇ、その宝物を持って、

そして一日中かかって、

その兄弟は山を降りて家(うち)に無事に帰ったて。

チャンチャン。

付記 この話はしょっちゅう聞きよりましたがね。

二人どめう捨てられた。

ほんなもんに思うて、聞きおったですよ。

〔三八  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P309)

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