嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

お爺さんと息子と二(ふた)人(い)

暮らしの家(うち)があったちゅう。

そいでにゃ、

お母(っか)さんな早(はよ)う死にんしゃったて。

そいぎ父(とう)ちゃんが、

とうとうお爺ちゃんにいちなって、

息子と爺ちゃんと二(ふた)人(い)暮らしおっ。

そいぎぃ、

「おっ母(か)さんのない、

明日(あした)は命日やっけん、

爺ちゃんな塩のなか。

そいけん、塩ばこけ六枚(みゃー)銭(ぜん)ば持っとっけん、

六枚がと塩ば買(こ)うて来(こ)らい。

塩はねぇ、ちぃーとばっかいで良か」ち言(ゅ)うて、

お金ば六枚、銭(せん)ば貰(もろ)うて、

その息子がテクテク、テクテク塩買いに行きおってばい。

あったぎ山に暮らしとったもんだから、

ズーッと坂道ば下って行きおったぎね、

その坂の向こうの方にねぇ、

ワァーワ、ワァーワ言うて、

四、五人の子供の遊びおってじゃもんねぇ。

ありゃあ、何ば面白うあぎゃん楽しゅうワァーワ言うて、

遊びよろうかにゃあ、と思うて、

「どらー」ち言(ゅ)うて、

行たてみたぎぃ、

虻(あぶ)ば二匹こう繋(つに)ゃーで、

「待っとったばい、高(たこ)う飛べ」ち言(ゅ)うて、

「まっと(モット)飛べ、

高(たこ)う飛べ」ち言(ゅ)うて、

ないとん繋(つに)ゃーで、あの、

虻ば一生懸命飛ばしごろしおったて。

「俺(おい)がとが高う飛んだどう」

「いんにゃあ。まっと負けんどっとばい」ち言(ゅ)うて、

その虻の尻ば棒の先でつついて、

高う飛ばしとらして楽しゅう遊(あす)うどったて。

(昔の遊びばい、ぎゃんとこすっとて。

昔ゃそぎゃんして野原(のっぱら)で遊ぶ。)

そいぎね、この兄ちゃんは、

ああ、塩買いに行きおいに、

この虻は気色にぎゃん(コンナ)して可愛そうなもんにゃー、

と思うて、一時(いっとき)見おったいどん、

「これこれ。お前(まい)達、

ぎゃん虻ば無理(むい)なことして括(くび)いつけて、

ごっとい(イツモ)飛ばすことなん。

虻はきっちゃ(疲レル)しよっぞ。

ぎゃん酷(こく)なことすっことなん」て言うて、

「いやんべぇー、面白かもーん」て言うて、

言うたない、

「『いやんべぇー』て、言うことなん。

ぎゃんことばすっぎ虻のかぶいつきやい来(く)っぞ」て言うて。

「面白かもーん。遊びじゃんもーん」て言うた。

そいぎねぇ、

「お前(まい)達ゃあ遊びでしよいな、

虻は鳴きよっ。そいぎぃ、

こけ兄ちゃんがお金ば六文持っとっけん、

いちよにあんた達こいばわけんしゃい。

そいぎ町さい行たてのんきどん買(こ)うたいして良かもん。

この銭(ぜん)ばくるっけん、

虻ば兄ちゃんにこの銭(ぜん)で売ってくいさい」て言うたら、

「そんない良か良か」て言うて、

じきー虻ば、その手元ない引き寄せてつかまえて、

「はい。」ち言(ゆ)うて、兄ちゃんにやって、

子供、もう飛ぶごとその坂の下を駆けて行った。

そいぎぃ、この息子は考えて、

手のひらのうちにもうコックイなって止まっと。

「ほんーに、子供のおもちゃにするって可愛そうだったなあ。

ほんに、あの自由に飛びよったとけねぇ。

お前(まい)達、さあ、飛びゆっか。

ぎゃんつかまらんごと木よい

高(たっ)かとけ止まっとれぇ」て言うて、

そしたらプーンて、虻は飛んでいった。

ああ、良かったあ。あいどん、

塩はもう買わんで、

爺ちゃんなどぎゃんないとんしやろ、

と思うて、お家(うち)に帰って、

テクテク、テクテク元(もと)来たように。

来る時ゃ目(め)ぇかからんじゃったいどんね、

帰いさみゃは(帰ル途中ハ)もう、

杉のもう立派かとのズーッと見渡す限り立っとっ。

杉山ば来る時も通って来たけど、

来る時は目ぇかからんじゃった、

帰いさみゃは目ぇかかったて。

そこの入口(いぃぐち)に立て札の立っとった。

木の立て札に立派か字でね、

「この一山(ひとやま)の杉が

何本あるかをあたって数えた者(もん)には、

私(わし)しが唯(ただ)一(ひと)人(い)持っとっ娘を嫁にやる」

聟さん取ろうでてね、

その長者さんは、ここん辺(たい)で名の売れたもう、

物持ちさんで、ビックイすっごと、

その、長者さんじゃったて。

その息子も知っとた。

そいぎぃ、幾らあるか数えてみゅーかなあ、

て思うて、杉ば一本、二本、三本て、

ズーッと四本(しほん)、五本、六本。

いんにゃ一本、二本数えよっちゃ間に合わん。

二、四、六本て数ゆっかにゃあーて思うて、

二、四、六、八、十て数えて。

まあー、あの、入り乱れてもう面倒臭い。

そいぎちかあーっと、

中(にゃか)にいってここん辺(たい)には何本、

まちかっと先では何本、

こういうことにしよう、

て思うてね。

あすこで二十本(にじっぽん)、

そいぎ二十本たったけん、指一本。

そいからまた二十本いって、

また、ああ、もうそぎゃんしよったぎぃ、

もう日が西に傾きかかった。

あらあー、ぎゃんもうせからしか(面倒クサイ)。

そうしてもう入り乱れて、

風が、そして夕方になって吹いてきて、

どうも寒い。もう、こんな面倒なことはなか。

ぎゃん数えられんやとけぇ、

あの長者は、我が植えた杉山は何本あっこっちゃいわからじぃ、

ぎゃんとば、立て札ば立てたばいにゃー、

て思うとったぎね、

何処(どっ)からじゃい耳んにきに

ブンブン、ブンブンて、

「ああーせからし」て、耳をはろうたらね、

またブンブン、ブンブンて。

そいぎぃ、しばらく、

「腰のああ、きつかったあ」ち言(ゅ)うて、

石にそけあったとに腰掛けとったら、

またブンブン、ブンブンてきて。

その何(なん)しよっとかなあーて、

指ばつったら、

「四万四千四百四十四本。

四万四千四百四十四本」耳にどうか聞こゆっ。

まっと良(ゆ)う聞いてみると、

「四万四千四百四十四本。

四万四千四百四十四本。」て、

聞いたごたったよー、と思うて見たら、

ポロンポロンてしたら、耳からね、

その虻のごたっとのオジョイショヨーって飛うで、

目の前の枝にヒャーッて止まった。

「ありゃあー、お前(まい)、

あのお礼に来たかあ」て、言うたらね、

そこに止まったとの、

「四万四千四百四十四本」て。

あらー、そいぎ勘が頭に浮かんで、

この山の杉は、

ヒョッとすっぎ四万四千四百四十四本あっかわからん。

当たっても良し、当たらじも良し。

当たらんばらんことでもなかて。

そうして、我がは嫁取いだけじゃいどん、

嫁も取らじも良かて。

どぎゃんじゃっても良かけん、

あつこに行たて、そいぎぃ、あの、

みゅーかにゃあ。

塩買(き)ゃあーは買わんじゃったけん、

家(うち)にもおろちて(急イデ)帰られん。

ユックリ夕方でん良かもん、て思うて、

テクテク、テクテクそっから、

長者さんの家(うち)は大抵(たいちゃ)遠かった。

そいからいちばん、

そいで足はきゃーなゆっ(草臥レル)こと、

テクテク、テクテク歩いて行ったら、

もうこんもりした森のような所に、

大きか門構えした家(うち)だった。

そうしてそけぇ、

爺やさんのごたっとの表(おもて)ば掃きよっとけぇ、

「お家に用事があって来ました」て、言うたぎぃ、

「どうぞー」て、

そのお爺さんの言うてござったから、

案内ば乞うて、その門をズウーッと通って行ったら、

玄関があったけん、

玄関に突っ立っとったら、

そこの長者さんが来(き)んさったて。

顔ばしかめたごとしてやって来て、

「何の用か」て、聞きんしゃった。

「あの山の立て札を読んで来ました」

「あら、そうか。そいぎ上がれ」て、

言うことで、応接間の立派か所に、

椅子に腰掛けたところが、

「あつこの杉の木、お前数えたか」て、

聞いてこらして。

そいで頷(うなず)いたぎぃ、

「そいぎぃ、幾らやったあー」て聞いて、

「四万四千四百四十四本」

「まいっぺん言うてみろ」

そいぎもう暗記しとったから、

「四万四千四百四十四本」

「うん。確かにそうだ。

帳面にちぃーとった」て。

「チョッと待っとれ。」ち言(ゅ)うて、

調べぎゃ行たて、自分がもんで、

「確かに、私(わし)も覚えとったけん、

そうじゃ。ここに私(わし)があん時植えた杉の木の

四万四千四百四十四本て、書いとった。

お前(まい)はほんに。

そいどんな、私(わし)の娘ば嫁にやるては

私(わし)ゃは言うたもんの、

娘がお前(まい)さんば気に入るかどうかはわからん。

そいけん娘に会(お)うてくれ」て、

言んしゃったて。「そいけん案内すっけん来い」ち言(ゅ)うて、

ズーッと幾部屋でん広か部屋のあって、

広か廊下ば通ってずっと、

「ここまで案内したら、こいから先は、

自分一(ひと)人(り)で通って行け」て。

そいぎズーッと広い廊下を、

気色に広か家(うち)なあーて、

家(うち)はほんなもう、

小屋んごた家(うち)に住もうといどん、

ぎゃん立派(じっぱ)か家(うち)にと思って、

廊下ばズーッと入(はい)って行きよったらねぇ、

きれいか房(ふさ)のついた襖(ふすま)のあったて。

あら、ここば開けんば向こうに行かれんて思うて、

その襖ばサーッて開けて、

そこにはね、蛇ばいーっぱい飼(こ)うてあったて。

「ああー」ち言(ゆ)うてもう、

そうして幾らおいろはわからんけんど、

樽んごたっとの中(なっ)から、

みんな生首ば持ち上げてこっちば、

蛇が見るそうな。

ああー、恐ろし。

あぎゃん所(とこい)は行かれん、

て思うて、襖ばパンて閉めたぎぃ、

また何処(どっ)から飛うできたか、

虻がブンブン、ブンブン、ブンブンて飛んで来て、

そうして耳元で、

「右の方の黄色い襖ば開けろ」て、

「今度は黄色い襖ば開けろ」て、言うとて。

そいぎ黄色い襖が、

右の方に行きよったらぎぃ、

じき目の前にあったもんだから、

そこばソーッて開けたぎぃ、

そいぎそこにはね、ピンクの花の何(なん)の花じゃい、

香りん良かとの、ほんにー、

もう部屋ん中いっぴゃあ飾っちゃって、

ああー、きれいか花なあ、と思うて、

その向こうん方に、

青か襖のまた閉まっとった。

あらー、ここば開けて行かんば、

娘には会われんばいのう、

と思うて、行きよったぎぃ、

ここば開けんばらんなあ、

と思うて、青か襖ば開けたぎね、

ナメクジのニョロニョロやっておったてよ。

ナメクジのおったてぇ。

あらー、ようそこがんか、

ここの家は奇妙なもんばっかい飼(こ)うとんさあ。

ほんにこのナメクジも気持ちん悪かあ、

て思うて、ピシャッて閉めた。

あの、ほら、

蛇にはナメクジが蛇の毒でしょうが。

蛇がきゃあ腐れて。

そいけん、そこの家(うち)は、

まず自分の家ば守るために蛇ば取って、

自分達に害すっ時はナメクジば離そう、

と思うて、飼(こ)うてやったて。

そいぎねぇ、あの、ナメクジがおったから、

「ああー、気持ちん悪か。

ああー、私(わし)もナメクジは大嫌い」ち言(ゅ)うてねぇ、

そこで案じておったぎぃ、

またブンブン、ブンブンち飛んで来たて、また。

そうして耳ん辺(にき)来てね、

コチョコチョコチョてすっごとしてね、

「今度はね、右の方ば通って行くぎ赤か襖のある。

そこば開けなさい」て、言うてじゃもん。

そいぎそこはね、右の方ばズーッと行きおったらね、

ほんなこて真っ赤か襖のあった。

そいぎそこば開けたらね、

向こうん方の明るいきれいか部屋に、

やあらしか(可愛イ)娘しゃんのニコーッて笑(わろ)うて、

見んしゃったて。そいぎ恐(おっそ)ろしか、

ぎゃんごた池の、嬢ちゃんて言うて良かいやろ、

お姫さんて言うて良かいやろ、

どじゃんあぎゃんてやろうかにゃあ、

て思うとったけど、ぎゃんやあらしかとないば、

我がも好(し)いとっようー、と思うたぎね、

向こうもまあーだ青年になったとばっかい

良か塩梅(んびゃあ)て思うてね、

何時(いつも)も奥座敷に閉じ込められとったけん、

人恋しゅうして、

「ああ、いらっしゃい」ち言(ゅ)うてね、

自分の所に寄せてとって、

大きなお菓子と、

「食べんしゃい、食べんしゃい」ち言(ゆ)うてね、

仲良くそこで二人で話しおんしゃったとこに、

長者さんのやって来て、そして、

「姫よ。お前(まい)が

一生連れ添うこの男でいいか」て、聞きんしゃったて。

「この男は大抵(たいちゃ)思慮深か者(もん)だけに、

山の木でん数えてきたとよ。」

そりゃ試験じゃったと、

言うていたぎねぇ、

何(なん)か恥ずかしそうに

笑(わろ)うて頷(うなず)いたけんね、

「こいで、我が家の跡継ぎは決まった」て、言うてね、

「その、実は、私には父が一(ひと)人(い)おる。

恥ずかしかごと小(こま)ーか

小屋んごたっとに、貧しい暮らしをして。

今日がおっ母(か)さんの、あの、

命日やった。そいけん、

私は塩を買いに行きおった」て言うた。

「塩でん何(なん)でん、

沢山(どっさい)車に積んでやる」ち言(ゅ)うてね、

魚も鯛の太かとから、塩も沢山持ってね、

そして長者さんは、お姫さんば連れて駕籠(かご)に乗って、

お爺さんが待っとっであろう山の貧しい村に、

お聟さんをご相談に、お姫さんと親子、

その息子も連れてね、三人で行って。

めでたしめでたしやったて。

こいもチャンチャン。

〔九  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P270)

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