嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 そのねぇ、むかーしむかし。

とても魚捕りの上手な漁師さんがいました。

ところが、もう、

この漁師さんな若くして死んでしもうたんです。

そうすっと、そのお母さんもねぇ、

その、お父さんが死んでからというものは、

体が弱くなって寝ていることが多かった。

そうして、

お母さんがたったひとりの息子さんを持っとったけど、

その息子さんに言うには、

「お前(まい)、お父さんを若くして死んだけど、

網でも何でも、舟もあるから、

お父さんの後継ぎを良(ゆ)う守ってしてくれ。

必ずお父さんの後継ぎをしておくれね」て言うて、

お母さんも死んでしもうたあ。

そいぎぃ、その一(ひと)人(い)息子は、

もう両親を早く亡くして、

まあーだ若いのにどうしたらいいだろうか、

と思ったけれど、でも、

お父さんがお魚をもって捕りに

行っていた舟も網もあるから、

一遍ぐらい海に出て、

お魚を捕ってみようと思って、

お魚捕りに出かけたけど、

だけど網を打っても、

なかなか魚が捕れんて。

もう二日行っても三日行っても、

お魚が捕れんから、ああ、

私(わし)には魚捕りにむいていないのかなあ。

やめようかなあ、と思うとって、

今日、魚ん捕れんごたったら、

魚捕りはやめよう、と思うた時に、

今日きりでお魚が捕れるか捕れないか、

運命のわかれ道だと思って、

朝早くからお魚捕りに行ったら、

網をサーッと海に投げたら、

網を上げたらもう、そりゃあきれーいな、

きれいな何ちゅう魚か知らんけど、

美しい魚が捕れたんですって。

そいぎぃ、そいばしげしげと見て、

こがーんきれいか魚ば見たた初めてごと。

こいば  しゃれとっ、

もったいなかと思うて、

自分の家(うち)の庭を掘って、

そこに手ごろの池を作って。

そうして、そがんと、美しい魚を、

その池でしばらく飼うことにした。

そうして、しばらく飼っていたら、

そうしたら、もう愛情もわいて、

もう毎日その魚を見て、暮らしていたんです。

もう、魚捕いもやめて、

あの美しい魚を見るばっかりだった。

その、何時(いつ)―でも美味(おい)しいご馳走もでる。

朝昼晩ともできる。

そいから、お洗濯もしてくれる。

夜になっと床をとってくれる。

家(うち)には誰(だーい)もいないのに。

誰(だい)がこんなにしてくれるだろうと、

ジーッと隠れて見ていたら、

あの池からピ-ンと、

跳び上がって、その美しい魚が、

きれいな娘さんになって。

そうしてイソイソと、

もうお料理でも、手際のよいこと、

立派に作って、あの、何(なん)でも

池のお魚がやっていたんです。

そうすると、その男の子は、

「お前もう、魚にならんでいい。

もう、このままの娘でいてくれ」て言うて、

抱きついて。

それからは、夫婦に二人はなって。

そいから先は幸せに暮らした。

そして二人が月夜の晩に光ることに、

「これはお父さんが、

お前さんていうきれいな子を

私(わし)にプレゼントしたんだようねぇ。

死ぬまで一緒に暮らそうねぇ」て、

二人は言って仲良く、

二人は一生暮らしたて。

そいばっきゃ。

〔八  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P269)

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