嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

耳の下の頬辺【ほっぺ】に太ーか瘤をブラ下【さ】げた

とても良いお爺さんとね、

また、ちょうど左の耳下【しち】ゃあ頬辺に

太かとば下げとんさっ爺さん、隣【とない】同士暮らしよんしゃったて。

良いお爺さんがねぇ、山に薪【たきぎ】を取いぎゃ行きんしゃったぎぃ、

雨の酷うバラバラやって降ってきたちゅうもん。

「ありゃあ、ぎゃんとけぇ雨の降ってきた。困ったにゃあ」て、

キョロキョロ見おんしゃったぎねぇ、ほんな根つうに木の穴んあったてぇ。

「ありゃあ、ここに良か塩梅【んびゃあ】に雨除け良か塩梅」ち言【ゅ】うて、

そこに屈【かが】みんしゃったぎぃ、

何時【いつ】のはじじゃい昼間の疲れで、

コックリコックリちい眠ってしみゃあいんしゃったて。

そうして、目の覚めんしゃったぎぃ、

雨はやんで、空にはピカピカの星の夜【よ】さいじゃったて。

困ったにゃあ。ぎゃん真っ暗【くろ】うなってから

山道ゃ沢山【よんにゅう】暗うなって帰られん、て思うとったぎねぇ、

向こーん方から、ドンガンドンガン、ドンガンガンちゅうて、

浮立の鉦の聞こえてだんだん近【ちこ】うなって来っちゅうもん。

そいぎぃ、お爺さんなねぇ、ありゃあ、浮立どんが来よっよう、

と思うとんしゃったぎぃ、

木の穴におんしゃったぎねぇ、ほんな目の前の広場にね、

鬼どんが浮立して来てさ、その鉦ば下【おれ】ぇて、

そけぇ座って、今度酒ば持って来たとば、

「酒盛りじゃあ」ち言【ゅ】うて、

楽しそうにワイワイ、ワイワイ、ガヤガヤ、ガヤガヤ話【はに】ゃあて、

唄どん歌うたいして酒盛りば始めたちゅうもん。

そいぎぃ、その雨除けしとった爺さんも

かねて面白か人じゃったもんじゃい、

「ああ、こりゃこりゃ、ドッコイショ」ち言うて、頬被りして出て、

踊い出【じ】ゃあて出て来んしゃったて。

あったぎねぇ、鬼どんが喜んだてぇ。

「わあー、こりゃ珍しか者【もん】の飛び入りじゃあ」て言【ゅ】うて、

喜んでねぇ。

そうして爺さんと一緒に踊ったい、酒どん飲んだいしてしおったうち

夜の明けかかったぎぃ、

鬼どんがねぇ、

「爺さん、今夜はほんに楽しかった。明日【あす】の晩も来【こ】いよう」

て、言うたぎぃ、

「明日【あしち】ゃも来【く】っごと、その頬辺の瘤は預かっとく」

ち言【ゅ】うて、

ピシーッと、爺さんの頬辺についとった瘤ばひっちぎったて。

簡単に鬼が引っ張ったぎ取れたちゅうもん。そうして、

「この瘤は預かっとくぞう。明日も来いよう」て、鬼どんが言うたちゅうもん。

そいぎねぇ、

爺さんのほんに瘤のいっちょブラ下がって面倒じゃったいどん、

良かったにゃあ、助かったあ、て心ん中で思【おめ】ぇながらねぇ、

我が家【え】さい帰って来【き】んさいたちゅう。

そいぎねぇ、隣の爺さんがこんことば聞いてばい、

私もこっちん方に瘤のくっついて困【こま】あ、邪魔で困っけん、

鬼も私【わし】も取ってもらうでぇ、と思うてさ、

爺さんに聞いて山さい出かけて行かしたちゅう。

そうして、あすこに木の穴ぼこのあったばーいて、聞いたもんじゃい、

そけぇしゃがんで、夜になんまでジーッと、雨も降らんのに待っとらしたて。

あったぎねぇ、夜になって星ん出たぎぃ、

やっぱいドンガンドンガン、ドンガンドンガンちゅうて、鉦浮立の鳴って、

そいがだんだん来っちゅうもん、我が根つう辺【にき】さい。

そいぎぃ、

その悪か爺さんもねぇ、ありゃ、来た来た、と思うて、待っとらしたぎぃ、

ほんな穴ぼこの前で、また鬼どんが酒盛りばしたて。

そいぎぃ、爺さんがじきねぇ、どら声で、

「ドッコイドッコイ、瘤取れドッコイ」ち言【ゅ】うて、

出て行かしたちゅう。

そいぎぃ、鬼がギョロッて見てね、

「昨日【きのう】の爺さんじゃなかごたっにゃあ。

踊りも下手くそ、歌も面白もおかしゅうもなか。

やーい、こぎゃんとは聞きもせじ良か。お酒飲みよっともまずくなっ」

て言うて、

「ほりゃ、昨日爺さんから預かった瘤ば、お前【まい】にくりゅうだい」

ち言【ゅ】うて、まいっちょん方にペチャーって、ほたい投げたぎね、

お爺さんな片一方にも瘤のまたペターッて、ひっついたて。

両方の頬辺にブラブラしてさ、悪かお爺さんな半べそきゃあて、

泣き泣き山から帰って行かしたちゅうばい。

そいばあっきゃ。

[一九四 瘤取爺【AT五〇三】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P158)

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