嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしのこっじゃったあ。

まあ、お宮さんの春の祭りのあったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、お爺さんもお宮参りどん今日【きゅう】はしゅう。

桜の花も咲【し】ゃあとんもん、と思うて、杖どんつきながら、

腰の曲がったお爺さんが行きよんしゃったいどん、

この道端で一休みしゅうかんにゃあ、と思うて、

石に腰掛けとんさったぎぃ、

お宮の方からは、笛がピィヒョロピィヒョロ、ドントンて、

太鼓の音んもすっけど、向こうの方で、

「チチンプイプイのおんたあからー。チチンプイプイのおんたからー」

て言う、小さい鳥【とい】の鳴きおっちゅうもん。

今まで聞いたこともなか、面白か珍しか鳴き声にゃあ、

と思うて、お爺さんな、

「もっと、こっちさい来い来い」ち言【ゅ】うて、手招きをしたて。

そいぎぃ、すぐ近くの、根の木に止まって、また面白う、

「チチンプイプイのおんたからー。チチンプイプイのおんたからー」

ち言【ゅ】うて、さえずってじゃんもん。

お爺さんな本当に面白か鳥、こりゃ、お祭いの日よいか面白か、

と思うて、手ば差し出【じ】ゃあて、

「俺【おい】の手の上にのぼって鳴いてごらーん」て、

ちい【接頭語的な用法、ツイ】言うたて。

そいぎぃ、その鳥は、ほんなこて手の上に止まって、

「チチンプイプイのおんたからー」て、

そりゃあ、美しか声で鳴いたちゅうもんねぇ。

不思議かにゃあ、と思うとったぎぃ。

そぎゃん思うて、ペラッて、舌ば出【じ】ゃあたぎぃ、

手の上から舌ん上きたて。

そうしたとこれぇ、

お爺さんな舌ばペロッて、ひん【接頭語的な用法】飲んでしもうたて。

ありゃあ、困ったことになってしまった。こりゃあ、弱ったあ。

こりゃあもう、お宮さんに参【みゃ】あ段じゃなかあ、

と思うて、家【うち】、急いで帰んしゃったて。

そうして、お婆さんに、

「今日【きゅう】は面白う鳴く鳥【とい】のおったぎぃ、

その鳥の根つうさい来たけん、面白かにゃあ、

と思うて、舌ばペロッて、口ん端嘗【な】めとっぎぃ、

舌ん上、止まってさ、そればひん飲うでしもうた。

あいどん、舐めとったあ」て言うて、

「お腹【なか】どん摩【さす】ってみゅう」て言うて、

お爺さんのお腹を叩いたい摩ったいしてみんさったぎぃ、

「美味【うま】か美味かで、チチンプイプイのおんたからー。

チチンプイプイのおんたからー」て、

お腹ん中で鳴きおっとの聞こゆっちゅうもん。

そいぎぃ、お爺さんな、チョッと腹ん中でまで鳴かせて。

こがん生きとっとこじゃろうかなあ、と思うて、

おんさったいどん、

じき村んことで評判になったちゅうもんねぇ。

「あすこの爺さんな、鳥【とい】ばひん飲んでさい、

腹ん中で鳴きおっちゅう」て言うて、皆が噂したて。

そいぎぃ、お城さいそん話が伝わって、

お城から、ある日、迎いの者【もん】の来たてぇ。

「殿さんが、『爺さんの腹の中の歌を聞きたか』

て、言いよんさるから、ぜひお出【い】でください」ち。

「こりゃあ、まいったなあ。婆様、どうしょう」ち言【ゅ】うて、

婆さんに相談すっぎぃ、

「迎えの来たないば行かじゃこてぇ」て言うて、

婆さんも連れて二人【ふちゃい】連れ、

お城さい恐る恐る行きんさったぎぃ、

恐ろしか広か部屋に厚か座布団ば敷【し】いて、

「さあ、そこに座れ」ち言【ゅ】うて、婆様と爺様と座らせてさ、

「お腹【なか】で鳴く鳥【とい】ば聞きたいもんじゃあ」

て、殿さんがお出ましになって、言んさったちゅう。

そいぎぃ、お婆さんがねぇ、お腹ばポトンポトンと叩いて、

よく摩んさったぎぃ、

腹の中の鳥【とい】の、

「チチンプイプイのおんたからー。チチンプイプイのおんたからー」

ち言【ゅ】うて、鳴くちゅうもんねぇ。

そいぎ殿さんが、

「恐ろしか珍しい。あっぱれー」て言うて、褒めになって、良かった。

褒美を貰うて帰んさったちゅう。

そいばあっきゃ。

[一八八 鳥呑爺【AT一六五五、一四一五】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P147)

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