嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

もう、ある所にねぇ、漁師さんがおんしゃったちゅうねぇ。

その漁師さんな鳥ばあっち取いこっち取いして、もうほんにあの、

的の外れたことのなかごと鉄砲撃ちの名人じゃったてぇ。

鉄砲撃ちの名人じゃったちゅうもんねぇ。

あったぎねぇ、ある日、山に行きんしゃったと。

その日は雀一羽でん鳥のおらんちゅうもん。

そうしてもう、ズンズンズン、今まで来たごとなかごと山奥さにゃ、

ズウッと先ん方に子どんが、ガヤガヤ、ガヤガヤ言いおっちゅう。

そうして、遊びおっけん不思議かにゃあ。

そぎゃん山奥にと思うとったぎねぇ、行って見たぎぃ、

十一人じゃいおったてぇ。

そうしてさ、十人な、その漁師ば見たぎぃ、

サーッと、逃げてはって行たちゅうもんねぇ。

ところが、

ひとり残った子は

ほんに小【こま】かとのお腹【なか】はヒョッと出【じ】ゃあて、

髪【かしら】はあの、もう、やんぼろうんごとして【バサバサシテ】、

顔は四角かごとして、鼻はペチャンコで、

お臍【へそ】も出【じ】ゃあとっ。

そうして、

着物【きもん】な半切れの着物ば着たとの、

面白うして笑わじおられんごと面白か顔した子供の

一人【ひとい】残ったて。

その子が、いちばん小【こま】かったちゅうもんねぇ。

ところが、その子が、もう愛敬の良か愛敬の良か、

もうその一人残されたいどん、

いっちょん怖【えっ】しゃもせじぃ、

その漁師さんの所【とけ】ぇやって来てねぇ、

「おじちゃんと一緒に暮らしたい」て、こう言うたて。

「そうかあ。ああ、お前【まい】も、おじさんにつんのうて来るか」

もう、ぎゃん暗【くろ】うなって遅うなったけん、帰ろうかなあ、

と思うて、もう帰ろうと思うとった頃から、

テクテク家【うち】に帰りかけると、

その子がドンドンついて来【く】ってじゃんもん。

そいぎ仕方なし、家に着いて、

「まあ、上がれやあ。上がれぇ」ち、言いおんしゃったぎねぇ、

あの、茶の間に上がって来たて。

そうして、お臍ばねぇ、もう、こう何【なん】か出臍んごたっとば

手でしよっちゅう、いじくいおっちゅうもん。

そいぎぃ、その猟師さんな、

「余【あんま】いお臍はいじくっもんじゃないよ。

お臍はないない【シマウ】、大事にしとかんばねぇ」て、

こう叱【くり】んさっ。

でも、そこ、お臍にばかい手を当てる。

そいで、

「お臍で遊ぶことなん」ち言【ゅ】うて、こう、

猟師さんが子供のお臍ん所【とこ】から手ば、こう払いんさったて。

そいぎぃ、その拍子にねぇ、

そのお臍からさ、小判のザクザクザクで、出てきたてよ。

「あらー、不思議かったあ。

お前【まり】ゃ、お臍から小判出すとじゃったねぇ。

そんない、よしよし。何時【いつ】まっでんいて良かあ」て言うて、

その猟師さんな可愛がっておんしゃったちゅうもんねぇ。

そいぎねぇ、その評判のじき村いっぴゃあ広がったあて。

そいぎぃ、隣【とない】の隣に、その猟師さんの友達が、

ほんに欲の深かじゃった。

そいぎぃ、その小判の出てくっとば見とおうしてたまらん。

「見すっよう」て、言うたぎやって来て、

その猟師の子どんば連れて来た猟師さんが、

その子供のお臍に手ばやっぎぃ、

子供はニコッとして、こっちまで笑わじおられんごと笑う。

そいぎぃ、

「ワッ」て、すってじゃんもん。

そうして、小判のその猟師さんの手に、

お臍に当たっとっにいっしょに、ゾクゾクゾクって、出てくって。

「ありゃあ、ほんなこてぇ」と、言うことになって、

その欲深か若【わっ】か者の友達が、

「どらー」ち言【ゅ】うて、

触ろうですっぎいっちょん出てこんじゃんもん。

「まっと、酷うお臍ば撫【な】ずっぎかにゃあ」て、

酷う撫でてもいっちょん出てこんて。

ポロッてでん、出てこん。

「そんないば」ち言【ゅ】うて、火鉢にささっとった金火箸で、

そのお臍ば突き刺したて。

あったぎね、子供のね、色青うなってじき死んだて。

それっきり小判な出んごといちなったて。

そいどんねぇ、

その子供がねぇ、生きとっ時、ニコニコ笑うてね、その猟師の男に、

「私は、かまどの神さんよ。藁で顔ば描いてくれ」て、

言うた時のあったて。

そいぎぃ、

「あんたの家【うち】は何時【いつ】まってん栄ゆっ」て。

そいぎぃ、あの子の元気か時、

かまどに眉はしょんだれっ【下ガッ】てして、

目もそれにつられてしょんだれってして、

口はもう、笑ったごと上さんブユーンと、上げたごとしてねぇ、

にこやかな顔ばねぇ、あの、描いたちゅう。

そいぎぃ、子供は死んでもこの猟師さんの家【うち】は、

何時【いつ】までも幸せに暮らしたて。

そいばあっきゃ。

[一八八 鳥呑爺【AT一六五五、一四一五】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P146)

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