嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

山の村に樵さんがおったと。

そして、その樵さんな正直者【もん】じゃったちゅうもんねぇ。

その正直者で名とっとったとさ。

そうして、ある日、山さい木を倒しぎゃ行ったぎねぇ、

松の木のさ、もの言うてじゃっもん。

ようして聞きよったぎねぇ、

「取っ付こうかあ、引っ付こうかあ」て、

その松の木が言いよっちゅう。

そいぎぃ、この樵さんは正直一方の男じゃったもんじゃいねぇ、

「いっちょう、悪かことをした覚えはいっちょんなかもん。

取っ付くないば取っ付けぇ。引っ付くないばあ引っ付けぇ」

て、こう高【たこ】う言うてみらしたちゅう。

あったぎねぇ、松の木から、パラパラパラーて音んして、

チャランチャランチャラーンて音んして、

金【きん】てろん銀てろ降ってきたちゅう。

そうして。

体中に引っ付【ち】いたてじゃっもん。

そいぎぃ、その樵さんなビックイしたいどん、

ほんに小判の引っ付いてきたもんじゃい、

嬉しゃして立とうでさしたぎぃ、

この小判の引っ付いて重とうしてたまらんやったて。

そいどん、小判の付いてきたもん。

こりゃ、銭【ぜん】儲けしたと思うて、

こりゃ、仕事の段じゃなかぼう、と思うてね、

家【うち】さい帰ろう、と思うて、帰りかけんさいたちゅう。

そうして、そいから先ゃ働かじ良かごとその樵さんなねぇ、

金持ちにならしたて。

あったぎぃ、この樵さんの隣にはねぇ、

根性の悪か樵さんのおったちゅうもんねぇ。

そうしてねぇ、

この樵さんなほんに、もう根性の悪かったいどんが、

何【なん】ちゅうか調子者でねぇ、

あの、我がに都合の良かごとばかいやったて。

他ん家【うち】の火事ーて、言うて聞くぎぃ、もう消えた時分に、

「あら、火事てやあ」ち言【ゅ】うて、

ビックイしたごたっふうで出かくって。

そいの如く仕事どま骨折らじぃ、

ちいすんごとばあっかいしといよらしたて。

そいけん、誰【だい】でん人のこの男は、

この樵さんば好かんじゃったちゅう。

そいぎねぇ、

隣の樵さんが恐ろしか金の沢山【よんにゅう】引っ付【ち】いてきて、

金持ちさんにならしたもんじゃっけん、

俺【おい】もそんないば、そぎゃん木のもの言うて、

取っ付こうか引っ付こうか、ち言【ゅ】うて、言うたないば、

私【わし】も行たてみゅう、と思うてねぇ、

その木のあっ所ば根掘い葉掘いその樵さんに聞かしたちゅう。

そいぎぃ、その正直者じゃっもんじゃい、

「あっこん所ば、あぎゃん回って、こう行くぎ松の木のあっ」て。

「あすけおって、ジーッと座っとぎねぇ。

そいぎぃ、その松の木のもの言う」て言うて、

その良か樵さんな

隣の悪か意地悪な樵さんに良【ゆ】う教【おそ】えんさいたて。

そいぎぃ、

その隣の樵さんの松の木の側【そび】ゃあ行たて、

ないだけ取っ付【ち】いて側ゃあ寄って、

ジーッとしとんしゃいたちゅうもんねぇ。

あったぎぃ、一時【いっとき】ばっかいしたぎねぇ、

「取っ付こうかあ、引っ付こうかあ」て、声のすっちゅう。

そいぎぃ、ありゃ、来たようと思うて、嬉しゃして、

「取っ付けぇ、引っ付けぇ。沢山【よんにゅう】引っ付ぇ。

沢山引っ付けぇ」て、言わしたちゅう。

あったぎねぇ、私脂【やに】のさ、

そこん辺【たい】からベロベロ、ベロベロて、出てきたと思うたぎぃ、

ベタベタ、ベタベタくっ付いてね、

この樵さんな体中

松脂【からだじゅうまつやに】だらけになってしまわしたちゅう。

「なんて俺【おれ】ぇは、ぎゃん松脂ばっかい引っ付いたろうかにゃあ」

て、言いながら、家さい帰って、

ほんにこりゃあ、松脂は燃ゆっけんと思うて、

灯いばこうつけて、側寄って良【ゆ】う見てみゅうで思うて、

見らしたぎね、

松脂のひっ付いてさ、

この樵さんは丸焼けして死んでしまわしたちゅうばーい。

そうばあっきゃ。

[一六三B 取付く引付く【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P116)

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