嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある所にねぇ、

大変おはぎ【牡丹餅】好きなお婆さんがおったてぇ。

そいで、

他所【よそ】からおはぎでも貰うぎもう、

我が一【ひ】人【とい】で食びゅうごとしてたまらんじゃったて。

そいで残ったおはぎは奥【おく】深【ふこ】うなやあて、

一人【ひとい】で食べよんしゃったちゅう。

そいで、

もう我が家【え】の嫁さんには、

いっちょん食べさしゅうごとなかったて。

そんな時、お婆さんは

他所に行きんしゃらんばじゃったてやんもんねぇ。

着物【きもん】どん他所行きに替えよんさったぎぃ、

お隣から重箱にいっぴゃあおはぎを詰めて貰いんしゃったて。

そいぎぃ、お婆さんはその日は、

おらんにゃあ、美味【うま】かおはぎば食べられん。

こりゃあ、美味かろうごたっおはぎじゃっとけぇ、て思うとったて。

そいで急いで、何時【いつ】もんごと戸棚の奥深くなおしさみゃあ、

重箱をまあ一遍出してみて、気にかかったとみえて、

「おはぎよ、おはぎよ。嫁さんがお前を見っぎぃ、

食べようとすっぎぃ、蛙になって、『ピョンピョン逃げろよ』て。

『必ず逃げろよ』」て言うて、

そいしころ言うたら安心して戸棚奥深くなやぁて出かけたて。

そいぎぃ、お婆さんなおはぎの来【き】しゃがすっぎぃ、

一人【ひとい】で抱【うじ】ゃあたごとして、

我がばっかい食べおんしゃった。

一遍ぐりゃあ、お嫁さんも食べとうしてたまらんじゃったげな。

今日は、お婆さんのおんしゃらんもん。

留守に、あの美味【おい】しかろうごたっおはぎばいただきましょう、

と思って、

こやん時じゃなかぎぃ【コンナ時デナケレバ】、

おはぎにあいつけんもん、と思うて、

お婆さんの留守に重箱を取い出して来て、

ああ、美味しかねぇ、美味しか、美味しか、と思うて、

一つ食べ二つ食べ、もうみーんな食べてしまいんしゃったて。

ありゃあ、こりゃあ、婆さんが帰って来【く】っぎぃ、

腹かくばいと思うて、

「蛙になれ」て、言いよったとば聞いとったもんけん、

蛙ばつかまえて来【く】う、と思うて、

早速、嫁さんなじき、田圃に行って、

蛙ばつかまえて来ていっぱいその重箱の中【なき】ゃあに詰めて、

知らん顔しておんさったて。

そいぎぃ、

お婆さんは外出から帰って来【き】んしゃって、

帰るなり早【はよ】う戸棚ん中を開けて重箱を見て、

あの美味【おい】しかろうごたっおはぎば食びゅうなあ、

と蓋【ふた】ば開けてみんしゃったぎぃ、

もう蛙が、ピヨンピヨン、ピョンピョン、

つかまえられんごと逃ぐってじゃんもんねぇ。

そいぎ婆さんな、

「嫁さんじゃなかとばい。婆さんばい。

嫁さんじゃなかとぞ。婆さんじゃっけん、

蛙にならじ良かあ。婆さんばい」

て、何【なん】ぼでん言うたて。

嫁さんな、ジイッと戸口から聞きよったぎぃ、

おかしゅうしてたまらんじゃったて。

そいぎぃ、嫁さんがおはぎを食べっしもうて、

蛙をいっぴゃあ詰めとったもんじゃい、

重箱ん中、全部【しっきゃ】あ蛙じゃったて。

そいばあっきゃ。

[一六二B 牡丹餅は蛙【AT八三四A】] (出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P116)

標準語版 TOPへ