嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

犬と猫が仲良く河原【かわら】で遊んどったちゅうもん。

そうして、犬がねぇ、川に、

そこん辺【たい】の流れ川に

水がペチャペチャペチャちゅうて、飲みよったぎねぇ、

川下ん方から鮭【さけ】、ツッツッ、ツッツッちゅうて、

もう上【のぼ】って来【く】っちゅうもん。

太ーか鮭じゃったて。

あいどん、犬は何時【いつ】もの癖で、ワンて、走って行って、

その鮭にかぶいちいたて。

そいぎぃ、ガブッて、やったから、

鮭はまあーだピチピチしといどん、

犬が咥【くわ】えているので離れん。

猫はすぐ魚ば捕いぎゃ行こうで来たぎぃ、

もう犬が取ったもんじゃっけん、羨ましゅうしてたまらんて。

その鮭ば欲しゅうしてたまらん。

「半分ないとん欲しかにゃあ」て、

涎【よだれ】タラタラして見おったいどん。

その時にね、北と西にお寺のあったて。

そいぎぃ、北のお寺のゴーンて、夕方鳴ったて。

そいぎぃ、ヒョッと猫が思【おめ】ぇちいてね、

「今、鳴った鐘はどっちの寺」て、聞いたちゅうもんねぇ。

そいぎ犬がさ、何とも思わじねぇ、

こうして見たぎ北んとじゃん。ウッウッ、ウッウッち言【ゅ】うて、

もう言いたいけど、口ば開くっぎぃ、

その鮭が今にも飛び出そうでしおんもんじゃい、言いわえじぃ、

チョッと思うとったいどん、

北ん方の鐘の鳴ったもんじゃい、

「ウッウッウッ」て、言いよったけれども、

「北ー」て、ちぃ【接頭語的な用法】言うたて。

そいぎぃ、鮭はパチャッと、落ちて、

早く深みさい逃げたてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、犬は猫に、

「お前のお陰、見てんろう。

鮭ばひん【接頭語的な用法】逃ぎゃあた」ち言【ゅ】うて、

恐ろしかキャンキャンキャンて、喧嘩したて。

そいぎぃ、猫が言うには、

「ワンさん。お前さんは口は開けたけん逃げたとよ」

「ああ、私【わし】ゃしゃくだ。

なぜ、口を開けさせたか」ち言【ゅ】うて、猫ば追っかけちょっ。

猫は逃げながら、

「『西』て言えば、良かったのに。『西』ち言【ゅ】うぎぃ、

口は開けじいも、『西』て、言われた」

て、言うたと。

「『西』ち言【ゅ】うとは、口は開けんでも言わるっ。

『北』て言うた、どうしても口ば、『ワッワッ』て、開けんばらん」て。

そいけん、今にも犬と猫は喧嘩ばあっかいしおっ。

犬は猫ば追いかけばあっかいしおっ。

猫は犬ば怖【え】っしゃ逃げてばあっかい。

そいばあっきゃ。

[動物新一 欲ばり犬(AT三四A)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話P22)

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