嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

蚯蚓の目【め】ぇかからじぃ、

もじゃあもじゃあ【ユックリユックリ】行きよっごたったてねぇ。

その蚯蚓も昔ゃちゃーあんとして目があったてよう。

そうして、ケロケロ、ケロケロてさ、地面【じじゃあ】を這いながら、

見回しながらおろいかガラ声でさ、

ガッガッ、ガッガッて、言いながら、這いずり回っとったてぇ。

ところが、

ある春のポカポカ良か日和にねぇ、

蚯蚓は盲さんの蛙さんに会うたてたいねぇ。

昔ゃねぇ、蛙は目をいっちょも持たんやったてぇ。

そうして、

蛙はねぇ、蚯蚓が目があって、

「二つもついてきれいかにゃあ。あの辺【へん】の花のきれいかあ」

て、言うたい、

「あらー、夜が明けたばーい。お天道さんで明るかあ」

て、言うたいすっとが、ほんに蛙には羨ましゅうして、

蛙さんな我が目のなかもんじゃいわからじぃ、

ほんに一遍で良かいどん、あぎゃんきれいか花ば見たい、

お天道さんば見たいしたかあ、て蛙が思【おめ】ぇよったて。

そいでねぇ、思いきってある日さ、

「蚯蚓さん、蚯蚓さん。

たった一遍でいいから、あなたのその目を私に貸してください」

て、しきりに頼んでみたて。

一生懸命頼んだぎ蚯蚓は、

「そりゃまた、どうして。目はつくっにはどがんしてつくっ」

て、聞いたぎぃ、

「蛙さん。いや、わけなか、わけなか。

そりゃお月さんにしゃが頼むぎぃ、いいよう。

じきつけてくんさっよう」て、簡単に言うたて。

そうして、月の明るい真ん丸かお月さんの夜にねぇ、

「お月様、お月様。

蚯蚓の目ばチョッコラ蛙の私めに、あの、つけていただきたいです」

て、お願いしたて。

そいぎねぇ、

「そうー。あんたがねぇ」

て、お月さん言っていらしたが、

「そんなに世の中見てみたいなら、そなたの願いを聞いて上げよう」

て言うて、お月さんがねぇ、

蛙の背中にさ、蚯蚓の目ん玉をつけんさったて。

「そん代わり、あんたは蚯蚓さんから、

そぎゃん目玉ば貰【もり】ゃあいんさったもん。

あんたのきれいか声ばさ、蚯蚓さんに

その代わりち言【ゅ】うちゃおかしかいどん、やったらー」

て、言んしゃったて。

「そりゃまた、おやすいご用」て言うて、

蛙さんのきれいか澄ちぎったような声ば、蚯蚓さんにやんしゃったあて。

声ば出してみてみっぎぃ、

ヒョロヒョロヒョロ、ヒョロヒョロヒョロて、

鈴ば振っごときれいか声じゃったて。

そいぎぃ、蚯蚓さんは安心して嬉しがんしゃったて。

「あがん、『ガッ、ガッ、ガッ』て、言いよったとの、

今からは、『チョロチョロチョろ』ち言【ゅ】う、良かー声になっ。

そいぎぃ、その目玉と声と換えっこしゅう」ち言【ゅ】うことになった。

そいぎぃ、そぎゃんことのあったもんじゃっけん、

蛙さんの目は背中について、

悪か声で、ギャア、ギャア、ギャアて、言うごとなったて。

そいどん、

辺【あた】りはギャロギョロギョロ、ギョロギョロ

見え渡ってきたそうです。

そいばあっきゃ。

[七四 蚯蚓の歌と蛇の目(AT二三四)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話P21)

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