嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしねぇ。

もう、犬【いん】ば一匹持っ猟人が、

あっちこっち捕って歩【さる】きよんしゃったてぇ。

ところが、

猟人の持っとんしゃった犬な、恐ろしか利口でさ、

恐ろしか強か犬じゃったてじゃんもんねぇ。

そうして、ぎゃんその猟人は、その犬ば可愛がって、

「珍しか名をつきゅう。つきゅうだい」ち言【ゅ】うて、

考えた末、カネは強かもんじゃい、

カネツケ、カネツケていう名前をつきゅう、

て思【おめ】ぇたちんしゃったて。

そうして、どがん深か山行たても、もう山中走り回って、

獲物ばその犬は追い出すちゅうもん。

ところがある日ねぇ、

今まで来たごともなかごと深か山に入【ひゃ】あってじゃん、

谷に行たてしまいんしゃったて、この猟師さんは。

そいぎぃ、

何時【いつ】もの道に慣れた所さい出【じ】ゅうだい、と思うて、

「カネツケー、カネツケー」て、言うぎぃ、何時【いつ】もなら

何処【どけ】ぇからでん飛【と】うで来【く】っとの、

いっちょん出て来【こ】んてじゃんもん。

そうして、グルグル、グルグル、谷間ばしおったうち、

もう夕方になってしもうて、

薄暗【ぐろ】うなって足元も見にっかごと暗うなったて。

そいぎもう、早【はよ】う帰たかもんじゃい、

その猟人さんな、

「カネツケドウコウ。カネツケドウコウ」て言うて、

高【たこ】う声ば嗄【から】すごと叫【おめ】きんさいどん、

何【なーん】も答のなかて。

ああ、何処【どこ】さいじゃい遠う出したばいにゃあ。

仕方んなかあ。今日【きゅう】はあきらめていっちょ帰ろう、

と思うて、そん犬と別れた所に木の枝ば折って、目印にしてさ。

そうして、

二、三日も家で待っとんさったいどん、

犬はとうとう帰って来【こ】んてっじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、

その猟人さんな気が気じゃなか。

ああ、俺【おり】ゃあ、子供んごと大切に可愛がっとったちこれぇ、

何【なーい】したことじゃろうかにゃあ。

犬の来んことなかいどん、と思うて、また山に行たて、

「カネツケドウコウ。カネツケ何処【どこ】だい」ち言【ゅ】うて、

声はもう割り裂くっごと叫ぇて回んしゃったてぇ。

あいどん、帰って来んやったて。

そいで、その猟人さんは仕方なく、

そいから先ゃ時々山さい登って、そうして、

「カネツケドウコウ。ケネツケドウコウ」ち言【ゅ】うて、

捜しおんしゃったちゅうもんねぇ。

そいどん、とうとう何処【どこ】に行たても、

いっちょんその犬は見つけきらじぃ、

その猟人さんは、ある日とうとう山に倒れて死んどんしゃったて。

そいぎぃ、村ん人達ゃその猟人さんを抱えて来て

お葬式どん出してやったて。

そして、冬が来【き】、また春になっても、

とうとう犬は帰って来んやったて。

そうしてねぇ、ところが、

その辺【へん】の山には、そいから先ゃ、一羽の真っ黒か鳥が

夕方、暮れ方になっぎ飛んで来て、

「カネツケドウコウ。カネツケドウコウ。カネツケドウコウ」て言うて、

鳴く鳥【とい】のおったちゅう。

そいぎぃ、村の人達ゃ、

「あの鳥は、猟人さんの魂の鳥ばい。

死んでも『カネツケドウコウ』ち言【ゅ】うて、捜しおんさっとて、

言うねぇ」ち言【ゅ】うて、

ほんに哀れんだあ、ていうことです。

そいばあっきゃ。

[六一 狩人と犬(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話P18)

標準語版 TOPへ