嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし、大昔。

神様がこの世さん天から降りて来て、ズーッと行きおんさった。

犬は昔ゃ三本足じゃったて。

そいぎ三本で、ヨチヨチヨチ前の二つは早【はよ】う行くぎぃ、

後ろの足は遅【おす】うなって、やあなか【中間】来て、

なかなか走り行くことも、とてもでけんて。

「ありゃあ、犬の行きよいどん、

ほーんに後ろん方から猪どま、ズーッと突っ走ったとこで、

犬はノロノロノロノロ行きおっ。

牛よいか行き遅か。

ほんにむぞうげ【可愛ソウニ】ねぇ。本当に可愛そうだねぇ」

と、言うたいどん、

あの、神様は何時【いつ】でも見おんさった。

そして、ある日のこと、神様は、

あらあーまた、犬がボソボソ、ボソボソ三本足で歩いて来【き】おっ。

むぞうかにゃあ、ほんにあいば【アレヲ】どがんないどんしてやろうと。

冬の来て、そいでもう、火鉢に当たって、

神様はお茶どん飲みおんさったて。

そしてもう、お茶を飲みつつ、こう火鉢を見たら、

火鉢は四本足の五徳の上に薬缶がかかっとったて。

あらあ、こりゃあ四本も足はいらんて。

灰の中ば動き回ってくちゃあ、この薬缶がふらつく。

こりゃあ、一本な減らさしても、

座いの良【ゆ】うしゃあがあっぎ良うなかろうかあ、

て思【おめ】ぇいさったもんだから、

神様は、

「五徳よ、五徳よ。お前【まえ】は、名前は五徳てちいとっから、

五つも足のあっても良かろうけど、幸い四本足のあっ」て。

「こけぇでんと座っくるっ物【もん】がおる。

誰【だい】じゃいがねぇ、

世の中には一本足らじ困った物【もん】もおっとよ。

そいで一本足ばくれんか。私【わし】にやると思ってくれんか」

て、五徳に話しかけんさったら、

五徳さんが、

「ない【ハイ】、ない。

神様の仰せなら言うことを聞きます」て。

「私【あたし】の足が、お役に立つなら、

どうぞどうぞ、お使いください。神様に差し上げる」

て、五徳が言うてくいた。

「有難うよう。

お前【まい】のお陰で助かる物【もん】がおるよう。

有難う、有難う。本当に貰っていいかなあ。

でも、五徳の足を何処【どこ】か片一方だけ取ると調子が悪いから、

私【わし】がちょうど座りのいいように、

良い間隔で、あの、授けてやるから、

お前【まえ】さんの足の貰ったばっかりに喜び、感謝をして、

お前【まえ】さんの一生楽にヌクヌク暮らせるからなあ」

ち言【ゅ】うてねぇ、火鉢の五徳から一本足をお貰いになって、

そうしてヨチヨチヨチヨチ、ヒョロヒョロヒョロヒョロ、

左によろけ右によろけして、歩いて行っている犬にねぇ、

「あの、前さぞ、三本じゃあ歩き難かろう。

走りもえんだろう」て言【い】うて、

神様がズッと、後ろ足をつけてくださった。右足じゃった。

そいぎ犬は喜んで、もうその辺【へん】、クルクルクルで回ってね、

「有難うございます。有難うございます。お陰で助かります」

て、言うたて。

「その代わり大事にせろよ」て言う、一声がかかったもんだから、

小便【おしっこ】をする時ゃ、

我が小便でんひっかくっぎぃ、神様に申しわけない、と思って、

右足ば上げんばらんとば、反対の左足のチョンて上げて、

小便すっごとなったて、ね。

そういうことです。

そいばっきゃ。

[六三 犬の脚]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話P19)

標準語版 TOPへ