嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

あの、子蟹さんがねぇ、お握りば持っとんしゃったてぇ。

そいぎぃ、お猿さんがそこへ、

「こんにちは」ち言【ゅ】うて、元気よくやって来て、

「ありゃあ。美味【うま】かお握りば持っとんねぇ」

ち言【ゅ】うて、

「俺【おれ】ぇもちぃっとくいやい」て、言うたてやんもん。

「いんにゃあ。ただではやられんばい」て、言うたぎぃ、

お猿さんがねぇ、

「ほら、柿の種ば持っとっけん、こいと換えっこしゅう」て、

言うたちゅう。

そいぎぃ、

「よし、よし。そんなら柿の種と換えてやっばーい」て言うて、

子蟹さん換えてやんしゃったてじゃんもんねぇ。

そうしたところが、お猿ちゃんはねぇ、もうじきーお握りば、

「美味【うま】か」て食べてしもうたて。

蟹さんは、裏の畑に行たてねぇ、そうして柿の種ば蒔いてさ、

「早く芽を出せ、柿の種」て言うて、お水ばやいおんしゃったて。

次の日は、また行ってね、行たぎ芽の出とったてやんもん。

そいぎぃ、

「早く大きくなれ、柿の種」ち言【ゅ】うて、

また肥しをやったい、水やったいしよんしゃったて。

そいぎねぇ、

柿がズンズン、ズンズン太うなっていったちゅうもんねぇ。

そいぎ今【こん】度【だ】ねぇ、その蟹さんはねぇ、

「早く実の生【な】れ、柿の種。早く実をつけろ、柿の種」

て、言んしゃったぎぃ、ほんなこてねぇ、柿の生ったぎぃ、

赤【あーっ】か実やら、青か実やらいっぱい生ったちゅうもんねぇ。

あったぎねぇ、また山からお猿ちゃんがさ、

「こんにちは」ち言【ゅ】うて、来たもん。

「おりょっ。柿の実の生っとっー」て言うて、

「いっちょ登って食びゅうかあ」て、言うたて。そいぎぃ、

「私ゃ登いえんもん。あんた、登ってちぎってくんしゃい」て、

言うたら、ゴソゴソ、ゴソゴソって、

お猿ちゃんのおてのもんじゃっけん、

ドンドン、ドンドン柿の天辺【てっぺん】まで登って、

そうして真っ赤に熟れた柿の実ちぎってさ、

「ああ、美味【うま】か。こりゃ美味かにゃあ」ち言【ゅ】うて、

見せびらきゃあて食べたちゅうもん。

蟹さんな下からよーっ【ヨク。ヨクヨク】と見上げてね、

「お猿さん、私も一つ頂戴。私にも頂戴」て、

下から言いおんしゃったいどん、いっちょんくれじぃ、

我がばっかいムシャムシャやって食べよったちゅう。

「そいば、一つぐらい頂戴」ち言【ゅ】うて、

何遍でん言うもんだけん、

「あら、うるさい」て、言うてねぇ、

お猿ちゃんは青かとの硬か柿の実ばちぎってさ、

そうして、そのお母さん蟹さんをめかけて、

「それー」ち言【ゅ】うて、青か硬い柿ば投げんしゃったちゅう。

あったぎぃ、

蟹さんのお母さんは甲羅がつぶれて死にんしゃったてよ。

そいぎぃ、そこにねぇ、子蟹さんがチョコチョコって、

帰って来【き】んしゃったて。

そうして、お母さんなペチャーアて、

死んどんしゃったもんじゃっけん、

「アァ、アァ。エーン、エーン。

お母さんがとうとうちぃ【接頭語的な用法】死んだ。

エーン、エーン」ち言【ゅ】うて、

悲しゃ泣いて、もう恐ろしか悲しんどんしゃったところにねぇ、

蜂さんが来たて。そうして、

「これ、これ。子蟹さん、何【なん】で泣きよっかあ」て、

聞いたら、

「うちの柿の木にお猿ちゃんが登って、

そうして、青か柿ばちぎって、お母さんに投げつけて殺したよう。

お母さんは、ちい死んだ。エーン、エーン」ち言【ゅ】うて、

泣くて。

そいぎね、

「よし。心配すんな。私【わし】が敵【かたき】討ちしてやるから」

て言うて、力になんしゃったて。

あいどん、悲しゅうしてたまらん。

たった一人【ひとい】おるお母さんが死んだけん、

「お母さんが、ちい死んだあ。エーン、エーン」ち言【ゅ】うて、

泣きよったぎぃ、

今度はねぇ、お栗しゃんが山からコロコロコロってして、

転うで来たて。

そうして、

「子蟹さん、なし泣きおっ」て、聞いたら、

「見てみんしゃい。

お母さんな、お猿に青か柿ばぶっつけられて、

ちぃ死にんしゃったよう」て言うて、

子蟹さんはまた、シクシク、シクシク泣きよったと。

そいぎねぇ、お栗ちゃんもねぇ、

「蟹さん、この敵ばきっと取ってやっ」て言うて、慰めたて。

そんくりゃあでこたえじぃ、

「ああ、悲しか。もう、お母さんのおらんごとなった」

ち言【ゅ】うて、泣きよったぎぃ、

今【こん】度【だ】ねぇ、大きか臼さんがさ、

ドシンドシン、ドシンドシンて、やって来【き】んしゃったて。

そうしてねぇ、

「蟹さん、どうしたわけかあ」て言うて、

臼さんが聞きんしゃったて。

そいぎぃ、今まで蜂さんやら、お栗さんに言うたごと、

「お山のお猿が来て、青柿ばぶっつけて、

お母さんはとうとう死んだ。殺された」ち言【ゅ】うて、

打ち明けたら、

「よし。そんな悪い猿は、自分達が皆で敵を取ってやる」

て言うて。そうしてね、

「猿さん。水飲みにお猿ちゃんが行く時に、

そっから蜂が、ブーンて刺すようにしとっこう。

そいから囲炉裏のあっ所には、

燠【おき】ばおきらきゃあときんしゃい。

その灰の中に、お栗ちゃんが、私が、ここに隠れとくよう。

臼さんは、どがんすっかちゅうぎぃ、二階の方におって、

何時【いつ】うでん押【おし】ゃつけらるっごとしとくから」

て言うて、皆が待ち構えとったて。

あったぎぃ、何【なーん】も知らじ

のほほんとして【ボケットシテ】、

あの悪猿めさんは、また山からテクテクやって来たて。

まあ、キョロキョロと辺【あた】いば見て、

「子蟹さん、こんにちは」ち言【ゅ】うて、来たて。

そいぎねぇ、まあーだシクシク泣くきよったぎぃ、

「もう、囲炉裏がいいなあ」ち言【ゅ】うて、

お猿ちゃん、囲炉裏の端にドカッと腰掛けたて。

あったらねぇ、一時【いっとき】ばっかいしたぎぃ、

お栗ちゃんが、火の中からパチーッとして、

お猿ちゃんめかけてはじけてきたちゅうもん。

そいぎぃ、お猿ちゃんな、

「熱【あっ】ち、熱ち、火傷したあ」ち言【ゅ】うて、

大げさに言うてさ。

そうして、「水でこりゃあ冷やさんばあ」ち言【ゅ】うて、

裏の水瓶ん所さいかけて行たちゅうもん。

あったぎぃ、そけぇ待ち構えとった蜂さんがねぇ、

矢を研いでチクーッて、「それぇ」て、

そのお猿ちゃんを突き刺したちゅう。

「あ痛い、あ痛い。あ痛い」ち言【ゅ】うて、

表さい飛び出【じ】ゅうですっとこば、

二階に構えとった大きな臼さんが、ドシーッと落ちてねぇ、

お猿ちゃんば押しつけて、

お猿ちゃんの首ば、ギューギューと縛めて、

「お前【まい】は悪猿じゃあ。

子蟹さんのお母さんを殺【これ】ぇて、余【あんま】り酷いぞ」

て言うて、

とうとうお猿ちゃんは首を取られて、押しつぶされて死んだて。

そいで、

「子蟹さんねぇ、あなたも可愛そうだったけど、

悪い猿ちゃんの敵【かたぎ】を取ってやったからなあ」て。

「皆は、こいから仲良くして力を合わせていこう」て言うて、

皆から慰められたて。

そいばあっきゃ。

[二七A 蟹の仇討(AT九B参照、二一〇)] (出典 蒲原タツエ媼の語る843話P8)

標準語版 TOPへ