嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

お爺さんが山ん畑でガッタンショガッタンショて、

畑は打ちよんしゃったてぇ。

あったぎその、先ん方にゃ石ん上に狸が来てさ、

「左ぎゃあにゃあ、ガッカンショ。右ぎゃあにゃあ、ヨーチヨチ」

て、わやく言うちゅうもん。

そいぎお爺さんが、

「こん畜生【ちきしょう】」ち言【ゅ】うて、

追っかけて行くぎぃ、サーッて、逃ぐって。

そして、ガッタカンショて、打ちおんしゃったぎぃ、

また石の上さいチョコッと座って、

「左【ひーだい】ぎゃあにゃあ、ガッカンショ。

右ぎゃあにゃあ、ヨーチヨチ」ち言【ゅ】うもん。

そいぎぃ、そぎゃん毎日あの石ん来て、

狸がお爺さんに悪口ば言うて。

お爺さんは腹が立ってしようががなかもんじゃい、

そのあくる日、婆さんにねぇ、

「鳥黐【といもち】ば買【こ】うて来てくいやい。

もう畑の石に狸の来て。俺【おれ】わやく言うて仕事のされん。

この鳥黐ばいっぴゃあ石に塗って、あの狸ば捕【と】っ来っ」

て、言うもんじゃい、

婆ちゃんはねぇ、鳥黐買【き】ゃあや行たて。

爺さんは、その鳥黐ば持って畑の石にもう、

ベッタイ塗ったぎねぇ。

そうして、畑を「ガッカンショー」ち言【ゅ】うて、

相変わらず打ちおんしゃったぎぃ、狸がやっぱい来たて。

そうして、左ぎゃあにゃあ、ガッカンショばやってじゃっもん。

右ぎゃあにゃあ、ヨーチヨチちやい出すち。

そいぎ爺さんが、

「こん畜生」ち言【ゅ】うて、追っかけたぎぃ、

今度はベッタイ鳥黐に足ば引っ取られとっもんじゃい、

狸は逃げられんて。

とうとう爺さんからとっ捕まられて、

縄でグルグル巻き結【くび】られてね、

爺さんなその狸ば家【うち】さい連れて帰って、

「婆さん、こん狸はわやくばっかい言いよったとよ。

今夜は狸汁どんして食びゅうでぇ。

こや、良【ゆ】う結【くび】っとっけん、

逃げんごと見よってくれやあ」て言うて、

また昼【ひっ】からお爺さん畑行きんしゃったちゅう。

そいぎぃ、お爺さんが畑に行たて、

お婆さんはねぇ、

その間にコットーンコットーン、コットーンコットーンて、

お米ば搗きおんしゃったてぇ。

あったいどん、コットーンて、搗くぎぃ、

米のカシャって、こぼるっちゅうもん。

そいどん、そいば拾【ひろ】ちゃ入れちゃ、

コットーンコットーンて、搗きよんしゃったぎねぇ、

その部屋の隅に結られとった狸がさ、

「これこれ、お婆さん。私の縄ば解【と】いてくるっぎぃ、

その米は私が搗いて加勢すっよう」て、

がん【コンナニ】言うてじゃっもん。

「解いてくれ。解いてくれ」て、哀れかごと言うて、

そいぎぃ、お婆さんなお婆さんで優しかもんじゃい、

今まで散々米ば搗いてきつかったもんじゃい、

「そうかあ。そうかあ」ち言【ゅ】うて、

その縄ばちい解いてくんしゃったてぇ。

そいぎ狸はね、

勢いよくカッタンカッタン、カッタンシャカッタンシャて、

米ば搗き始めたて。

搗くとは良かいどん、余【あんま】い勢いの良かもんじゃっけん、

お米の今まで以上にその土間さい、ボロッてこぼれ、

コトーンボロッ、コトーンショゴーて、

米のこぼれてちぃっと【少シ】にいちなってじゃっもん。

お婆さんは、

その米がもったい無【の】うしてたまらんもんじゃい、

しゃがんでは拾って、

その狸の搗きよっ所に、米ば入れおんしゃったぎぃ、

一時【いっとき】ばっかいしたぎぃ、その狸のさ、

「婆【ばば】が頭は、コットンショー」て言うて、

お婆さんの頭ば杵で酷う叩【たち】ゃあたて。

あったぎぃ、お婆さんの頭は打たれたもんじゃい、

もうコロッてちぃ【接頭語的な用法】死にんしゃったて。

あったぎぃ、狸がねぇ、お婆さんの着物【きもん】ば着てばい、

お婆さんの首ば棚ん上に載せてねぇ、

お爺さんの帰りばその狸がお婆さんの着物着て待っとったちゅう。

お爺さんは何【なーん】も知らじぃ、

「ただいま。今帰ったばーい」ち言【ゅ】うて、

帰って来んしゃったて。

あったぎねぇ、その婆さんの着物着とっとが、

「あの棚ば、ようそ見ろ。あの棚ば、ようそ見ろ」て、

言うてじゃっもん。

おかしかにゃあ、と思うて、

ヒョッと、お爺さんの棚の上ば見んしゃったぎぃ、

婆ちゃんの首が載っとったちゅう。

そいぎぃ、お爺さんのビックイたまげしてさい、

もう動きえんごと腰抜かしんしゃったて。

そのお爺さんもじき、こりゃあ、狸の仕業ばいと思うて、

「こらー」ち言【ゅ】うて、

這うたごとして、追っかけて行きんしゃったいどん、

じき山ん中さい逃げて行たてしもうたて。

そいから先ゃお爺さんは、

もう来る日も来る日も泣きおんしゃったて。

そけねぇ、兎さんが、

ピョンピョン、ピョンピョン跳んで来たちゅう。

そうして、

「お爺さん、お爺さん。どうして泣いているのう」

て言うて、聞くちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、お爺さんはねぇ、

「狸に婆ちゃんは殺されたあ」て言うて、

泣きながら話しんさいたて。

あったぎぃ、兎さんのねぇ、

「爺さん、悲しかったねぇ。

お婆さんは、ちい死にんしゃったねぇ。

あいどん、泣きんさんな。

お婆さんの敵【かたぎ】は私がとってやる。

きっと、あの敵をとってやるから」ち言【ゅ】うて、

慰めて兎も山さい帰って行ったちゅう。

お爺さんから聞いた兎さんはさ、早速狸さんの家【うち】に、

「ごめんなさーい。狸さん、こんにちは」

ち言【ゅ】うて、尋ねていたて、

「狸さん、薪取いぎゃ行こうかあ」ち言【ゅ】うて、誘ったぎぃ、

狸は、

「そいも良かろう」ち言【ゅ】うて、じき承知したちゅうもん。

そいで、狸と兎さんは向こうの山さい薪取いに行たて、

「枯れた枝ばいっぱい取っとかんぎねぇ、

冬も来っぎ冷【ひや】かけん」ち言【ゅ】うて、

いっぱい取ったて。

そうして、二人【ふちゃい】どめいっぱい背中に背負【かる】うて、

山を下【くだ】いかけた。

「狸さん、あんたが足の速かもん。前ば行きんさい」

ち言【ゅ】うて、

兎さんが後からついて山を下りて行きよったぎぃ、

一時【いっとき】したぎぃ、

カチカチ、カチカチ、カチカチ、カチカチて、音がすっ

ちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、狸が不思議に思うてさ、

「兎さーん、兎さーん。

『カチカチ、カチカチ』て、音のすっがあれは何【なに】ー」

ち言【ゅ】うて、聞いたちゅう。

そいぎぃ、兎さんが澄まーして、

「ああ、あれはねぇ。あれはねぇ、

ここん辺【たい】、『カチカチ山』ち言【ゅ】うとよう」

ち言【ゅ】うて、教えたて。

【実はねぇ、こいは兎さんが火打ち石でさ、

カチカチ、カチカチて、打って

狸の背負っとる枯れ枝に火ばつけて殺そうで思うて

鳴らしおったとよう。】

あったぎぃ、一時【いっとき】したぎねぇ、

ボウーボウーて、音んすっちゅうもん。

そいぎぃ、また前へ行きよった狸さんが、

「ここは、そいぎ何【なん】ちゅう山―」ち言【ゅ】うて、

聞いたて。

そいぎね、兎さんが、また澄ましてさ、

「ああ、ここねぇ。ここは、ボウボウ山たいねぇ」て、教えたて。

ところが、まもなく一時【いっとき】したぎぃ、

狸の背負った薪物が、枯れ枝の燃え始めてさ、狸が、

「熱【あつ】、熱、熱、熱、熱」て、転び回い始めて、

そうしてもう、狸は背中いっぴゃい火傷したちゅう。

そいぎぃ、あくる日ねぇ、

兎さんが狸さんの家【うち】に行ったぎぃ、

狸は背中いっぱいの火傷で、

「ウーウー、ウーウー」ち言【ゅ】うて、

呻【うめ】きながら寝とったちゅうよ。

兎さんな、かねて優しかったもんじゃい、

「ああ、ほんなこて火傷して痛かったろう」ち言【ゅ】うて、

狸さんの背中に味噌ば塗ってくいたて。あったぎぃ、

「こぎゃんして味噌塗って寝とったぎ治っばーい」ち言うて、

帰ったてぇ。

そいぎぃ、一時【いっとき】したぎ火傷は治【ゆ】うなったて。

【狸さんの火傷は治【よ】くなったてよ。】

そいぎねぇ、今度兎さんのねぇ、

どぎゃんないとんして仇討たんばらんにゃあ、

と思うとらしたもんじゃい、

今度は木の舟と泥の舟と一生懸命なって作んしゃったて、兎さんが。

そうして、ある日ねぇ、狸さんの家に来て、

「狸さん、海に魚釣りに行こうかあ」て、言うたぎぃ、

「そうだなあ。

こぎゃんして部屋ばっかいおったぎつまらんもんなあ。

行こう、行こう」て言うて、じき賛成したて。

そうして、兎さんと狸さんは魚捕りに出かくっごとなったあ。

そいぎぃ、狸さんに兎さんが言うに、

「そっちの舟はきれいかねぇ。

そっちのきれーいか舟に、あんた乗ったらどうー」て言うて、

泥舟を狸に勧めたぎぃ、

「うん。こいが立派かあ」ち言【ゅ】うて、

じき乗ったて。

そうして、兎さんはねぇ、

「このおろいかとに乗ろうかあ」ち言【ゅ】うて、

おろいか舟に兎さんは乗って。

木の舟と泥舟は、だんだん海の奥さい二艘の舟は漕ぎ出したて。

あったぎぃ、一時【いっとき】ばっかい行たぎねぇ、

狸がねぇ、

「ありゃあ、俺【おい】が舟は水が入ってきたよう」て、

言うたてじゃっもんねぇ。

「あら、そうー」て言うて、兎さんが狸さんの舟ば見よったぎぃ、

その泥舟のさ、うっかんげかかって【壊レカカッテ】きたて。

崩れかかったて。

そうして、沖に行たとこれぇ、

狸はとうとう海に、泥舟と一緒に沈んでしもうたてぇ。

そいけんもう、狸は溺れて死んだてじゃっもん。

そいぎぃ、兎さんはそいば見届けて、お爺さんの所さい行たてね、

「お爺さん、やっとお婆さんの敵をとりました」

ち言【ゅ】うて、報告に行きんしゃったとよ。

そいばあっきゃ。

[三二C 勝々山] (出典 蒲原タツエ媼の語る843話P8)

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