鳥栖市秋葉町 山本千代子さん(明45生)

 むかしむかしの話。

あの、殿様が何処か家来と一緒に、

ずうーっとお帰りになりよったて。

そこは小さな川が、きれーいな川が流れてねぇ、

こっちの方は山じゃったて。

そうしたら、十四、五才の娘の子供が、

そこで菜っ葉ば洗いよったらしか、降りて行て川で。

そうしたら殿様がね、あの、

馬に乗ってずうーっと通って

行きよんさったら、ちょっと止まってね、

「ちょっと止まれ。止まれ」て言うて。そして、

谷川にこなふりすすむ娘の子 背細ければ背高けば妻に所望

ち言(ゅ)うて、歌わっしゃったて。

背高ければ妻にするてね。

そうしたら、その子供がね、十四、五才の娘の子供がね、

殿様へ殿様へ あの奥山の躑躅(つつじ)椿はご存知あれ

背細けれど花も咲きます

て、歌うて返したて、殿様に。

そうしたら、殿様がね、またびっくりしてねぇ、

「そんなら何月何日は、またここを通るから、

お前の家(うち)に、あの、寄ってね、

『お前をくれ』て言うから、あの、

その時はちょうど待っといてくれ」て言うて、帰らっしゃったて。

そいから、その娘はね、その娘は、あの、妹の方で。

姉(ねえ)ちゃんは連れ子ばってんが。そいで、

「お母さん、こがん言われたよう。

『何月何日は、あの、自分ば貰いに来っ』て言んなさった」

「何のお前(まい)じゃろうかい。姉ちゃんのほうたい」

て言うてねぇ、お母さんが言うたて。

そいから、本当にその日がきたら、

殿様がね、貰いに来たらしか。

そうしたら、その姉ちゃんの方はきれーいに着飾って、

そして姉ちゃん十七、八なっとって。

その子は十四、五やろう。

きれーいに着飾ってもう、きれーいにお座敷に座らしとっ。

そしたら、殿様がね、ちゃあーんと家来がつんのうとって。

その娘の着物をきれーいに持って、

そして殿様が、あの、お出でになった。

そしたらね、姉ちゃんの方は、おフジて。

「おフジ。あの、早(はよ)う出てきなさい」て、

おフジがちょっと挨拶(あいさつ)したて。

そしたらね、お盆にね、皿の八つ重なってのっとったち。

そして、竹に塩がその上にのせて、

松の木ばまたそこに置いてあっち。

「これば、歌ば作れ」て言いならったて。そしたらね、

「盆の上に皿、皿上塩、塩ん上竹、竹ん上松」と言うたて。

そうしたら、その、竃(かまど)の所に、こう汚んなか、

あれしてから、ごたっ娘ば聴きよったて。そして、

「姉ちゃんな、何(なーん)がそがんやろうかい。

私が一つ作ってみる」て言うてね、

盆皿や盆皿や やたらが竹に雪降りて

雪を音として育つ松かな

歌うたてね。そうしたら、

「もう、これやった。その娘じゃった」てね、

気にいただいて連れて行きんなったちゅう。

そいも、母から聴いた、私の母から。

[二〇六 皿々山(AT八七九)]

(出典 鳥栖の口承文芸 P124)

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