鳥栖市田代新町 日吉佐一郎さん(明29生)

 畑のすみやにちょと腰掛けて、狸がな、

あの爺が田打つは、あの婆が田打つは、

左ぎゃにゃギッカンショ、右ぎゃにゃギッカンショ。

ちゅうて、その、笑うわけだな、狸が。

「畜生」ちゅうて、もうすぐ逃げて行くち。

すると、また来るち。

また来てしかその、狸がその腰掛けものの上に、

チョキンと腰掛けて、

あの爺が田打つは、左ぎゃにゃギッカリショ、

右ぎゃにゃギッカリショ ちて、笑うわけ、

「こん畜生。」ち、また逃ぐるち。

どうでんこうでんその狸ば、いっちょ掴まえないけんち、

いうところで、家(うち)戻って、爺さんがな、

「婆さん、婆さん、きゃあ餅ばかけい」ち。

「なんするかい」

「狸ばいっちょ掴まえないけん」ち、言うことで、

「きゃあ餅かくる」ち。

「そのかき餅ば作れ」ちゅうて作らせた。

そして、狸が腰かくっとの上に、ベッタリ塗っとっつろうち、

知らでな、また狸が来て、ちょこっとこれ腰掛けて

「あの爺が田打つは」

で、いいつろう、ところが今度は、

「なん、こん畜生」ちゅとこが、

何処(どっ)かに逃げて来たとこが、

尻がペタッとこれひっついて、どやんこってのかんち、

とうとうひっ掴まえたちゅうところだな、狸を掴まえたち。

そうして、家(うち)持たって、足をひっ括(くび)って、

その、戸棚の中に押し込んどったげな、

戸棚の中に入れとったっち。

そして、戸ばつめとったっち、

そして今度(こんだ)あ、帰って来てから、

爺さんと婆さんと、米搗きよったっち。

そうしたところが、戸棚の中から、その、

「ちいっとばかり開けてくれんない」ち。

「俺が米搗いて加勢するけんで、

婆さん、婆さん、米搗いて加勢する」

ち、言うて、その、言うち。

それから、ちいとばかり開けたっち、

「もう、ちいとばかり開けてくれ」ち、

とうとう、ヒョロッと出て来たげな、狸が。

それから、その狸が米搗いて加勢しつろうちゅうところ、

加勢しよったげな。

こうして米搗きよったげな。

後には、その婆さんばなで杵で叩き殺したっち。

な、そして、叩き殺してち、

婆さんの着物ば全部狸が着てしもうて、

手拭も被って、そして、婆さんばうち殺して、

婆さん汁ば炊いとったわけ、汁ば。

そして、爺さんが、帰った時分に、

「爺さん、爺さん。今日は、あの狸掴まえとったと、

狸汁ば炊いとるばい」

「うんそうかい。そりゃ旨(うま)かろう」ちゅうて、

狸汁ば、その、爺さんが、その、山から戻って来て、

その、狸汁を吸いよっつろうち。

そうしたところが、その、狸が

化けとうもんじゃけんで、逃ぐる時、

「あの爺が婆食うた。棚の上の頭見れ、

床下(よかんした)の骨見れ」ちゅうてから、

婆さんば料理(りょ)った骨ば床下に入れたっ。

そして、肉は汁ば炊いて狸汁に煮(に)ゃとったわけ。

婆は狸汁になっとったわけ。

(西南大の資料)

[三二A 勝々山]

(出典 鳥栖の口承文芸 P49)

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