鳥栖市幸津町 豊増タカさん(明35生)

 ある田舎の人がね、呉服屋に買い物に行ったって、

その人がもうとても寒がりやったっ

て、夏に下に綿入れを着て上から帷(かたびら)※ば着て、

買いもんに行ったって、呉服屋に。

呉服屋の番頭さんが、じっとお客さんば、見よったらね、

『こりゃ、下に綿入れば着てある。おかしいなあ。』

と思って、

「夏冬が一度に来たか田舎人、下に綿入れ、上に帷。」

って、その番頭さんが言うたげな。

『いやあ、おりゃあ、わからんごと、綿入れば着て来たりゃ、

人中でこげな恥ばかかせて』

いうて、番頭さんの顔を見たりゃ、番頭さんが片眼じゃったげな。

そしたけんね、

『おいも負けるもんか。』思てね、

「夜昼が一度に来たか都人、開いた眼もあり開かぬ眼もあり。」

って言うたげな。

そいけんね、あんまり、人のことを言うちゃでけんって。

わが身を考えずに言うちゃでけん。

〔笑話〕

〔鳥栖の口承文芸 P227〕

※注1 帷とは麻などで仕立てた単の着物。

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