東川登町袴野 南 権平さん(明31生)
「親孝行には福の神が舞い込む」と言う話もあんもんなたあ。
そいぎその、一人(ひとい)娘嬢がなたあ、
あがんてぇ、山寺のごたっお寺に、
その、じゅうべぇな娘が預けらしたてぇ。
そいぎぃ、もうその娘がお寺に行たてぇ、
もうほんに真面目にすんもんじゃけん、
和尚さんもなかなか喜うで。
そいぎぃ、そのお母さんが、あの、もう鬼面のごたっとば作ってなたあ、
「鬼面ばやっとっけん、俺(おれ)ぇ会(や)あたか時ゃあ、
何時(いつ)でもその、この鬼面ば見ろ」と言うて、
わが会(や)あたか時ゃ鬼面ば行たてやっとらしたてぇ。
ばってんがそのお母さんが、病気で、あの、
もう死ぬか生きるかちゅうごたっ風な病気をしんさいたもんゃいけんが、
その、知らせや来たちゅう話じゃんもんなたあ。
そいぎ今度(こんだ)あ、あの、三里ぐりゃあ、
山道の越えたいないたいして行かんばなんところてぇ。
そいぎぃ、そりゃあもう、朝行きよおったちゅうもんなたあ。
あの、博打うちがひっ捕まえて、そうして、もう、わが家(うち)さい親嬶痛みでもう、
おろちいて戻いおっとば、その娘ば山ん中さい連れてはしったちゅうもんなたあ。
そいぎもう、娘はどうして怖(えす)かもんじゃいけん、つんのうて行たちゅうわけぇ。
博打うちは入(は)い込うだちゅうもんなたあ。
そいで、あの、あがんてぇ、あの、炭焼き小屋のごたっとのあってぇ、
博打うちが寄って博打うって、そして、今度(こんだ)あ、
あの、火ば焚(た)かせたちゅう話のあっ。
そいぎぃ、火ばその娘が焚きおったてぇ、そいぎぃ、
今度(こんだ)あもう、博打うちここん所(ところ)でしおっ。
ここん所(とこ)で火ばドンドン焚きおって、
おすうにゃ煙(けむり)ぶかったちゅうもんなたあ。
煙(け)ぶかったもんじゃっけんその、その鬼の面ば被ってぇ、そうして、
こうこう吹きじゃいどがんじゃいして、面ばその、ぶったろうごたっなたあ。
そいぎぃ、今度(こんだ)あもう、
「鬼の出て来た」ち言うて、もうそいどんが銭ゃそけぇ置(え)ぇて、
全部(ぜんぶ)ゃあながら逃げたちゅう話やんなたあ。
そいぎぃ、その銭ばまくって、そうしてあの、
行たてぇろうちゅう話じゃんなたあ。そいであの、
「鬼面は悪魔を払おうて」て、言う話のあるですよ。
(出典 未発刊)