東川登町袴野 南 権平さん(明31生)

 むかしなたあ。

その、山のかたぴらの(とこれ)ぇ、上と(しち)ゃあと、その、爺と(うんぼう)とおったところがなたあ。

あの、二家族。

そいがその、上の爺さんが、上の婆さんが洗濯に、洗濯しゅうで思うて、

糊ば棚ん上にのせとらしたてぇ。

そいぎぃ、その爺さんが、婆が何ば(ええ)とろうと思うて、

こうして手ばやってひっくいがやさしたてぇ。

そいぎぃ、着物の(とこれ)ぇその糊ばひっつけたもんじゃっけん。

そいぎぃ、こう洗うて裏のてんさい(とこれ)ぇ、

そいばその、干しや行かしたてぇ。

今度(こんだ)あ、あの、赤鬼と青鬼と出てきて、

その爺さんばひっ(かか)えて、上さいその、連れて行たちゅうもんなたあ。

そいぎにゃもう、(えす)かもんじゃい、もうビクビクしてものも言いやえじおらしたいば、

その、あの、どうして、こうこうして行くもんじゃいけん、

ちょっとおかしかないどんその、金玉が小さかったけんなたあ、

そいからもう、屁ばぬらしたてぇ。

「下ったは、下ったは(ない)か、ぶっしょううぐろ、鳴ったは何かお寺の太鼓」と、

言うようでその、連れて行たちゅう話じゃんなたあ。

そうして、山奥に担いで行くたてぇ。

そうして、()えて、そうして金ばぶっすいその爺さんの(きゃ)あええたてろうてぇ。

そいぎもう、そうして鬼がおらんようにいちなったもんじゃいけん、その金ば取って。

そうして、わが家さい逃げてきて、そうして銭勘定しよらしたてぇ。

そいを下の(おんぼ)が、どがんして銭ほどきばしよっじゃろうかにゃあと。そいぎぃ、

「こうこう、こういうわけでござんすっ」

そいぎぃ、今度(こんだ)あ真似て、ちょうどいっちょん違わんごと、

あの、さしたちゅう話もあいよった。

そいぎぃ、ちょうど今度あそう言う風で、鬼が、あの、連れて行くちゅうなたあ。

そいぎぃ、こりゃあ、金のことはわかっとっもんじゃいけん、

どうしてそう言う風で、金玉ば下げたいは、

「鳴ったらないぞ、出るのは太鼓」ち言うもんじゃいけん、(わる)わしたちゅうもんのまい。

そいぎその、

「人間じゃったか」て言うて、血だらけないきゃあてしもうたなたあ。

血だらけないきゃあて、もう命からがらなって、もうわが家の前の片ぴらからもう、

血だらけなって、もう来よらすもんじゃっけん、婆さんが、

「あの、うちの爺さんな、火の衣まで得てきおんさっ」て言うて、もう(たが)(ぼうき)かたげて、

その、踊いよらしたちゅう話じゃんなたあ。

鬼から血だらけなされて()らしたちゅう話なたあ。

火の衣はそう言う風ちゅうてぇろうてぇ。

そいから人真似すっぎぃ、ろくなことはなかて言う。

そう言う風な話を昔ゃ聞きおったたんたあ。

(出典 未発刊)

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