東川登町袴野 南 権平さん(明31生)
むかし。
気の利いた者もおるし、もう不便か者もおったちたっなたあ。
あの、昔のこと、医者と坊主と山法師とちゅうもんなたあ。
ちょっと一口に言えば、
医者と坊主と山法師と議論したという話のあるどん。
「病気というものはその、気から病気はすっ」て、こう言う風に。
そいぎぃ、医者さんが来て、
「病気は気からすんもんか」と。
「病気ば持ち出すけん、病気くさん」て。
そいぎ山法師さんな、
「いんにゃあ。病気は気からばい」と。そいぎお寺の坊さんも、
「やっぱい病気は気からじゃろうごたっ」と。
「そいぎぃ、気から病気ばするよりたんねてみゅうやっかあ」て、言う風で、
言ってみたところが、その、牛乳配達がずうっと来よったちゅうもんなあ。そいぎぃ、
「あいば、病気は気からじゃいろう、ためてみよう」て、言うごたっ風で。
今度あ、あの、ためしなった。
そいぎ一番口その、牛乳配達は、いっちょんわからじぃ、
いつものごとお寺に行かしたいば、お寺の坊さんは、
「あら。お前あ、どうどう目かけの悪かとこは、どがんかありゃあせんか」と、こう言う。
「いいえ。どがーんもごさっせん」て。
「そいどん、そりゃあおかしかばい」て。
そいぎぃ、俺ゃあ、どがーんもなかいどん、妙なこと言わす、と思うて。
今度あ、山法師のとこれぇ行かしたいどん、山法師さんがビックイした風で、
「お前あ、どがんじゃいあろうごたっ。
ほんに色目も違うて。
もう脳溢血のごとして、もう、うっ倒しゃせんじゃろうかにゃあ」
「どがーんもござっせん」て。
そいぎぃ、こりゃあどう言うことか、と思うて、
今度あ医者さんのとこれぇ牛乳配って行かしたぎぃ、
お医者さんがもうビックイしたごとして、
「ありゃあ、お前あ、あの、もう心臓の悪かろうごたっ」て。
そうして、こうしてもう、脈ばとらしたぎぃ、どがーんもなかてぇ。
「どうしてこりゃあ、もう心臓麻痺して、もう、そがんして歩きよっぎぃ、
うっ倒れじゃならんけん、もう早う帰って寝てが良かろう」て。
そいぎぃ、こりゃなあ、何処ぇでもこういうふうに言うとっが、と思うて、
わが家さい帰らしたいば、あの、病気になったという話も聞いたことあってなたあ。
そいけん、病気は気からて言うとが、大抵、あの、あるわけじゃなたあ。
(出典 未発刊)
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