東川登町袴野 南 権平さん(明31生)
むかしなたあ。
頓知の深い中兵衛さんち言う人がおったもようたいなたあ。
その人が片目っちょうで、あの、なかなか頓知が早かったもようです。
そいで、寒い日、魚売いが下ゃあにゃあ片びら着て、
上には袷着てそうして魚売り行たろうごたっなたあ。
そいぎぃ、この中兵衛さんが、
「あの、魚売いさん。俺、歌詠みをお前して聞かすっけん、腹きゃあてはおくんさんな」と。
「そりゃあ、何て腹かくかあ。お前の歌ば歌うてくるっぎ聞こうだいのう」て。
そいぎぃ、今度あ中兵衛さんが、
夏冬夏冬一度にきたか魚売り
下は片びら上は袷なりけり
と、こう作ったちゅうなたあ。
そいぎぃ、今度あ魚売りが中兵衛さんに、
「歌詠みの仕返しば私が、あの、
歌いますけん、腹きゃあてくるんな」
「そりゃあ、腹かきゃあせん」と。
そいぎぃ、今度あ魚売りが、
夏冬夏冬一度にきたか中兵衛さん
開けた目もあるねぶった目もある
と、こう作ったて言う頓知話のあっもんなたあ。
(出典 未発刊)
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