神埼市神埼町竹原 山田トヨさん(22)

 むかし。

婆(ばば)さんば捨てじゃなんてなたあ〔捨てなきゃいけなかったね〕。

そいばってんがその、親孝行息子じょうがその、

捨てきらっさんじゃたてっちゃんなたあ。そいぎい、殿さんの、

「どれ〔馬の〕が子供か。どれが親か」ち言(ゆ)うてその、言わし召したて。

そうしたいその、お母さんば捨てんまらんとばってん、

床(よか)ん下になたあ、入れておいござったて。

そうしたぎい、お母(か)さんに、

「あの、お母さん、こぎゃなお殿さんのお話のあったとっが、

『どれがあの、子供じゃろうかあ。どれが親かあ』ち言うて、

お母さんに聞きござった〔聞かれた〕」て。

そいぎい、そのお母さんが、

「あの、子供、そけおっとはない〔そこにいるのはね〕、

子供がいちばん口その、同じ馬ばってんが先、食(た)ぶって。そいが子供」

ちて、その、言わし召したて。よく

「そやお前はゆう〔よく〕知っとんおらんばなあ」て、言いござったて。

そいぎぃ、

「私(あたし)ゃ、こぎゃんしてあの、『捨てろ』て、

言われたばってんが、捨てきらじその、床ん下にその、ぎゃんして置(え)えとりまする」

て、言わしたて。そいぎい、

「年寄りがその、おらんばでけん〔いなきゃだめ〕」ち言うて、殿さんがなたあ、

放棄しござったて。

そいけん、どうしたっちゃ〔どうしても〕親孝行せんばでけんばんたあ。 

〔大成 五二三A 親棄山 (AT九八一)

 (出典 吉野ケ里の民話 P165)

標準語版 TOPへ