神埼市神埼町四丁目 米光輝次さん(26)

  これはなたあ、その、私ところの説教のあの、大連寺さんの話たんたあ。

これは大連さんは禅寺でなたあ。

そいぎその、この問答は真宗の坊っさんじゃなくして、

この禅宗の坊っさんが問答は、ちょっとやんさんらしかたい。〔やられるそうです〕

ところが、ちょっとなたあ、性質(たち)の悪か禅宗の坊っさんが、旅から旅へ行ったて、

お寺の和尚さんをその、問答で負かす。

つまり、負けさするわけたいなたあ。

そうするぎ〔そうしたら〕その、他所(よそ)に行たてその、

悪口さるん〔言われる〕もんじゃいその、お酒を出して、

ご馳走してもてなすわけたんたあ。

そいぎい、そう言(ゆ)うことをして歩つく(そうつく)

その、坊さんがおったらしかたんたあ。

そして、大連寺さんにそいが来て、ちょっと坊さんの、

「私は諸国行脚のその、旅の坊主で問答してしたが、いっちょ〔ひとつ〕、

この和尚さんに問答をお願いしに来た」と、こう言うたと。

ところがその、和尚さんがちょうどその、留守だったらしかたんたあ。

また坊守(も)いさんが、ちっと変ちくりんのこたところのあったじゃうなたあ。

そいで、ひょっとその、思い出したとが、

「前その、餅屋さんのおらしたたんたあ。源蔵さんて付(ち)いとった」ち、

聞いとったごった、その、

「家(うち)の坊守(も)いさんな、あの、たびたびはおりませんけれども

その、弟子の坊主などはおります。そいけん、そいならよかったならその、問答にあげます」と、

こう言ったらしかたんたあ。そいぎい、

「折角来たもんじゃ弟子の坊主もよか」と。

そいぎい、坊守いさんがこそこそと行たて、

「源蔵さん、源蔵さん、今日(きゅう)ぎゃんすっけん〔このようにするから〕

その、坊さん問答に来とっ」て。

ところが、その、生憎(あいにく)その、供養に行たて留守。そいけん、

「あんた、ちょっと代わりに出てくいろ」て、言うたて。

そいが、かねてその坊守いさんにこの源蔵ち言うとが、

「俺(おや」、何(なん)でん知っとっ。何でん知っとっ」

ち、言うてその、言いよったらしかたんたあ。

そいで、坊守さんは、今日はいっちょ〔ひとつ〕

源蔵さんを困らせてやろうと、こうその、思(おめ)めぇとんさった。

そいで、その来て、ちょっと衣を付けてなたあ。

そして、あぎゃん〔あのように〕したと。そしたところがその、

「和尚さんが留守けん、私(あたい)が代わり来た」と。

そいぎい、こりゃあ弟子のあぎゃんとは、ああ、たった一問のもとに、はねつけてやろうと、

こう旅の坊んさんが思うとったらしかたんたあ。

そいでその、大体ば言うぎぃ、問答て言うとは、あの、ちょっと、

「当方が、しんばしあって、ふるはしなきゃあ、これいかに」と、

こう言うことを言(ゆ)う人ですね。

「そりゃあ、新聞あって、言う分なしが如し」

と、こう言う風なあぎゃんと〔あんなの〕ばしよったて。

ところが、まあいっちょ、上ん段の無言の問答て、手ようでする、あれがあったて。

その難しか無言の問答を、このお坊さんが、こりゃもう、手ようだけでやったと。

そいぎその、旅の坊さんが手で丸を作ったて。そいぎその、源蔵さんが、

「弟子の坊主と言うとばってんありゃ、俺(おい)ば餅屋と思うてその、

餅は幾らか」て、こう聞きよっと、こう思うござって。

そいでその、大体餅はその、その頃、五文で売いよったあ。

ところがその、こや、旅の坊主じゃっけんが五文な十文てばかい言うてやろうで思うて、

指ばこう、こう出したらしかたんたあ。

そいぎその、おう、おかしかなあ、と思うてから、

まあ、今度あその、指をこう出したらしかたんたあ。

そいぎその、俺が十文て言うたけん、

五文に負けうて、こいが言いよっばい〔いってるよ〕と、

源蔵さんは取ったわけじゃんなたあ。

そいでその、あかんべえ〔いーだ〕。

そいぎその、旅の坊さんはどぎゃん〔どのように〕思うたこっちゃい、

もう、そそくさとひっと出て〔はみ出て〕、

草鮭(わらじ)は履くごと履かんごとして、

ドンドンドンで、ずーっとその、この辺ずーっと、

こうして三丁目(神埼市神埼町)さい行たて、

ずーっと一丁目辺〔にき〕さい、おろたえて〔あわてて〕行たて。

もう、ちょっと一丁目の出来町ん辺(にき)さい行たてから、

その茶屋によって、

「ちょっと婆さん、俺、茶を一杯くれ。おやもう、こんな目に合(お)うた」

ちて、と言うて。

その、お茶を飲む飲む、坊さんが言うごとにはその、

「丸を、こうしたとはその餅じゃなしその、これは太陽は」て、こう言うたわけたんたあ。

「太陽は遠か」そうしたところが、十本こうした。

「十方世界を照らす」て、言うわけたいなたあ、そいもんじゃ今度(こんだ)あその、

「五本出したとはその、極楽は」て、こう、言うたて。そいから、

「あかんべえー」て、こうさしたとを、その、旅の坊さんはその、

「目の前にあり」と、こう取らしたて。

そいぎい、こりゃあ弟子の坊主だけが、こぎゃん〔こんなに〕上手ないば、

師匠の坊さんな、どぎゃん〔こう〕上手こっちゃい〔かどうか〕わからん、

と思うてその、

「ドンドン、もう逃げたごとして、一丁目ん辺の茶屋まで行た」て、言(ゆ)うたて。

そしたら今度(こんだ)あ、片一方また、そうこうしよったぎ、その、

今度あ、ほんな坊さんが帰って来たもよう。

ところがその、二人(ふたい)はその、鳩の豆鉄砲食うたごとしておらすて。

「お前、源蔵さん、源蔵さん。衣どん着て何しよんな〔してるか〕」と聞いたて。

そいであの、

「今度、こぎゃん〔こんな〕こぎゃんで、旅の坊さんが問答に来てその、

坊守いさんが、私(あたい)ば迎えに来なったけんが、ぎゃん〔こう〕した」て。

ところがその、坊さんがその、俺が衣着とっばってんその、餅屋と思うて、

「『餅は幾らか』と、こうしたもんじゃい、俺が

『五文で取いよっばってん、十文』て、言うたて。

そいからまた、今度あ、五本出(じ)ゃあてその、

『五文にまけろ』て、言うたもんじゃ、

『あかんべえーした』うろたえて〔あわてて〕逃げた」て言うて、

その三人、どぎゃんでんその三人ながらどぎゃんでん育ちのわからんでえ。

笑い話やったて言う、聞きよったたんたあ。 

〔大成 五二〇 蒟蒻問答(AT九二四)

 (出典 吉野ケ里の民話 P155)

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