唐津市馬渡島二松 牧山トモさん（明12生）
むかしあったげなたい。
そうして、爺と婆とおったちゅう。
そうして、爺は山に芝刈りに行った。
婆さんは川に洗濯行て。
ところが、桃が流れてきた。
そして、その桃を一つ食べてみたところが、美味(おい)しくてたまらぬ。
「まあ一つ流れてきたら、爺に持って行こう」て、
その婆さんが祈りおったら、まあ一つ流れてきて、
そん、持って帰って、こりゃあもう、美味(うま)かったけん
爺に食わせんばて思うて、そん、持って帰って、そして箪笥の中に入れて。
ところが、爺さんが左わらさすって帰って、
「爺、爺。あの、俺(おり)ゃあ今日は、川に行ったところが、
桃のいっちょ流れてきたけん、それば食うたれば美味(うま)かった。
そして、まいっちょ流れてきたら、爺に持って祈りよったところが、
また来たけん持って来た。箪笥の中に入れたけんが、食べんな』。
そうしたところが、爺さんが箪笥を開けてみると、
きれいなきれいな男の子がおったて。
「こりゃ、婆わりゃあ桃食うて、子どもたあ。きれいな男の子おりよっ」て。
そうしたりゃれば、
「いんにゃあ、俺(おり)ゃあは持って来て、めぇた」て。
上がってみれば本当にその、もうきれいな男の子のおっ。
「ありゃ、こりゃまあ、有難(ありがて)ぇこと、神様の与いじゃろう」て。
「わがどま子ども持たんなん、どうして爺と婆と二人働きおっところに、
こんなきれいな息子の子を与えられたか」て。
「まあ、本当に」て言うて、爺と婆は大喜び。
そうして、喜んでまあ、何処に行たても、珍らしい物(もん)があれば、
「桃から生まれたけん、桃太郎でつきゅうで」て言うてな。
そうして、もう何(なに)があっても、
「『桃太郎、桃太郎』て言うて、食べさせておったところが、
その子どもはズンズン太うなって。そうして、賢い子ども」て言うて。
そうして太うなしよっところに、
「さあ、俺(おれ)もこうしてしよる。
お前(まい)たちば養わんばけんが、今(こん)度(だ)あ、
鬼が島さにゃ鬼見ち行こう」
「鬼から食われたきゃあ、どうすっかあ」ち。
「いんにゃあ。食われん、食われんけん、
今度(こんだぁ)鬼ん家(うち)行きおれば」。
そうしたら、その婆さんが、
「そんならば行くならば、黍団子ば作ってやろうだい」て、
言う時ゃ、黍団子を作って、袋に入れて、腰につけて行きおれば。
猿が出て来て、
「桃太郎、何処へ行くか」ち。
「俺(おり)ゃあ、鬼が島へ鬼討ち行きおっ」ち。
「俺(おれ)も連れて行け。その腰の物は何(なに)か」ち言(ゅ)うたら、
「こりゃあ、日本一の黍団子だ」て。そいぎぃ、
「いっちょ俺(おれ)食わせろ」ち。
「俺ついて来るなら、食わすよ」ち。
「ついて来っくさあ」て言うて、そうして貰うて食べた。
そして猿が行きおっ。ところがまた、犬(いん)が出て来っ。
「桃太郎。何処へ行くか」ち、犬が言う。
「俺(おり)ゃあ、鬼が島に鬼討ちに行きおっ」ち。
「腰の物は何(なん)か」ち。
「日本一の黍団子です。こりゃあ、いっちょ食べればわからごとなっぞ」ち。
「俺(おれ)いっちょくれんか」ち。
「俺(おり)ついて来ればくるっ」て言うて。
「ついて来っさい」ち言(ゅ)うてから、
また犬もいっちょ貰うて食ぶっと。そして、また雉子が出て来て、
「桃太郎。何処に行きおっか」ち。
「俺ゃあ、鬼が島に鬼討ちに行きおっ」ち。
「腰下げた物は何(なに)か」て。
「こやあ、日本一の黍だんご」て。
「俺(おれ)ぇ、いっちょくれろう」て。
「ついて来るなら、くるっさい」ち言う。
そうして貰ろうて食うて。
犬(いん)と猿と雉子がついて行く。
行たてみれば、犬が食おうて、手で鬼がもう、
そりゃあ、どがしこでん出て来っ。
ザッと何(なん)の、桃太郎は賢いからな、
どうじゃこうじゃして、その、鬼を殺す。
そうすれば雉子も出て来て、コツコツ、コツコツやってこずく。
犬はワンワンかみつく。
猿はもう、目ん玉をくじり、鼻をくれ。
猿は目ん玉をくじるのは上手ですもんな。
そいばわが好かん人に、飛うで来てかみつく。
そうしてま、殺した。殺してしもうて。
見ればその鬼の首はもう、たくさんな宝物。
そうして、それを取って車に積んで。
車の上に乗って、犬は引かれて、宝物と。
そうして行きよれば、婆(うんぼ)がさあ、
大喜び、ああ、桃太郎が帰って来おっ。わが車に乗って」て。
「誰(だれ)じゃれば、そこから出て来おる」
ち言(ゅ)うて、爺と婆は大喜びして、
「桃太郎」ち言うて、わが家(うち)から真似てばい、
そうして喜うで行たてみれば、宝物を大層持って来て、爺と婆は大喜び。
もう言わんごとあっばい。
そいばっかい【それでおしまい】。
（出典 未発刊）
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