唐津市馬渡島二松 牧山トモさん(明12生)

 むかしその。

 爺さんが山に行っとる。

そうしたところが、鬼がたくさん出て来て、相撲取る。

相撲取ったところが、爺さんが見とって、

「今(こん)()あ、赤鬼が負けた、黒鬼が勝った。

黒鬼が負けた。赤鬼が勝った」ち言()うて、その爺さん言いおりました。

そうしたところが、

「今んとは、人間になろうて、どうして探した」て。

探したところ、今度あ、人間としておれば、食わるっからと思うてから、

爺さんは、もうものも何(なーん)も言われずに、ひらしたままこうしておりました。

そうしたところが、

「こや、人間の声じゃったばい」て、家(うち)さい連れて行たて、

川のうちに飾ろうてて、鬼たちが抱えて、そうしてまあ、

大切にして、わが家(うち)、抱えておったところが、その、渡す川がある。

そいでその川を渡っ時、

「地蔵ほんぐり、高(たこ)うかけ。わが頭は濡れんごと、高うかけ高うかけ」

言うてその、囃したてて、抱えられてもう、おかしゅうしてたまらんばってんが、

そのもう、笑(わり)ぇはこりゃあ食わるって思うて、

ひとつも笑いもせんも、何(なーん)とも言わすも、

口もよまさずに、抱えられて行た。

 ところが、その鬼が、あの、金や食物や何(なん)じゃ盗んで来とってから、

金ももう、たくさん爺さんの前に持って来て置いた。そして、

「また、行こう」ち言()うて。

その留守にその爺さんに、わが前に置かれたもんじゃっけん、

「持って家(うち)に帰っ」ち言う。帰ったところが、隣の婆さんが、

「爺さんたちは、何処(どっ)からそぎゃん何(なん)じゃい、

その、かんじゃい持って来たか」て言うたぎぃ、

「こりゃあ山に行きよったぎぃ、あの、鬼が来て相撲取る。

『赤鬼が負けた、黒鬼が勝った』」て言うて、囃しおったところが、おの、

「人間の声のすっ。食おうで」ち言うて、探し来たもんじゃ、

その、ジーッとその、地蔵の真似して。

そうしたところが、岩の奥(おっく)に飾られて、

そしてこがんと、わが入れてもろうて、

「わがどま貰って来た」と言うた。

そうしたところが、隣の婆(うんぼ)がまた、

「いんにゃ、隣の爺どまもうけ物にして。ここの爺のごとつまらん者はおらん」

て言うて、なかなかその、よっぽど欲爺じゃったて。

そうしてくるうたて。そうしたところが、

「ダラダラそんなら、俺(おれ)も行こう」ち言うて、行きました。

そうしたところが、そうしてまた鬼が、相撲取る。

「また赤鬼が負けた。黒鬼が勝った」て言うて、

その、また人間の子に、木の端に寝た。

地蔵のまた来とっ。

また泊めてもろうただろうで。

そうしてまた探して。

地蔵ばその、ジーッとしとったち。

そうしたところが、連れて帰る。

そうしてまた、その川を渡る。

「地蔵は高(たこ)うかけ。わが頭は濡れんごと、高うかけかけ」

て言うてその、抱え上げられたて。

「へぇ、へぇ」て、笑い出した。そうしてから、

「こりゃまあ、人間た」ち言うて、

「はい。食うぞ」ち言うて、

ひとりが一方から引っ張りして、食われてしもうたち。

そうしてもうそのまま隣の婆さんも爺さんも、

亡くなったごとあったもんでしょう。

そればっかり。

(出典 未発刊)

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