唐津市馬渡島二松 牧山トモさん(明12生)

 むかし。

爺と婆やがおって、犬を飼っとって。

そして、その犬を可愛がって太らかして。

ところが、ある時その爺さんの袂(たもと)ば咥(くわ)えて、そして畑の隅に行て、

「ここを掘れ」て言うて、掘らせたちゅう。

そして、掘ればたくさん、そのもう、

お金やら何(なに)やらその、出てきて、宝物が。

そうして、喜んでわが家(うち)に持って行たて、納めおわったところに。

また、隣の婆さんが来て、

「爺っちゃ、何処(どっ)からそぎゃな物は持って来たかい」て、言うたところが、

この犬を小(こま)か時から可愛がっておった、わが子とは持たじぃ。

そうしたところが、こりが畑の隅に連れて行て、

「ここを掘れ」て言う。そいけん掘ったれば、

「こげなとの出てきた」ち。

そうしたら、その犬を借りて、

そうして何のわが主人でばしゃあるごとな、言わすて。

鳴くと、無理そびいて行たて、吠えたち。

(なん)の出てくるかい。何(なーに)まなかたい、泥だけ。

そうしたところが、

「こん畜生。うぅすらごと言ったじゃ」ち言()うて、殺して。

そうして爺様泣く泣く、殺されるかな。

爺さんは泣く泣く葬(ほうも)っておった。

そうして、葬ったところが一本の松の木を植えて。

その松の木が見る見るうちにもう、ズンズン太って。

そしてその、まあ、貧乏じゃったもんじゃろう。

そして、その木を切って臼を作って。

搗けばその、もう、何(なん)じゃかんじゃその、

良か物やら、お金やら臼の中から出てきて。

そうして、おっところば、そこば隣の婆(うんぼ)から見られた。

そうして、ところがまた隣の爺さん、また臼を借りに来て、

搗くばってん何(なーん)もなか。

(ごみ)の出た。

そうしたところが、またその臼をうち割って、焚いてしもうた。

そうしてまあ、その爺さんは余程(よっぽど)正直か爺さんでしたろうな。

そうして、小(こま)かうちから俺(おり)がこうやって養って太らかしたぎぃ、

もううち殺し。

臼までうち殺されたち。

この灰も俺(おり)ゃあ作いやえんと思うて、

その爺さんが、それをかき集めて笊(ざる)に入れて抱えて帰りおったところが、

風がパーッと飛んだところが、枯れ木にいたて、その灰がいたところが、

きれいな花が咲いた。

こりゃあ、まあどういうことか。

何て言うても粗末にはされんち。

枯れ木に花が咲いた。

まあ珍らしか。

お殿様が駕籠でお通りになる。

そうしたところが、その爺が、こりゃあ珍らしかことじゃと。

笊に入れてその灰。

「木に登って花咲爺て、枯れ木に花を咲かせてみせよ」て言うてから、

「うーん。そりゃあ珍らしいなあ。咲かせてみせようか」て。

「咲かせてみせましょう」て、パーッと枯れ木に灰撒いたところが、

もう立派な花が咲く。

「うん。こいつは面白い。こやあ、どういうもんか」て言うて。そうして、

「お前(まい)はどうしてこんな知恵を出したか」て言うて。

「まあ、知恵を出したわけでもない。

小さい時から犬を飼っておったところが、

その、その爺さんから殺されて、可愛(かわゆ)うして

犬を葬って一本の松の木に植えたところが、その、その松の木が太うなって、

それで臼を作ったところが、その、搗くたんびに、お金や何(なに)や出てくる。

そうして、また隣の爺からまた臼も燃やされて、

(あんま)り小かうちから可愛(かわゆ)うして太らかした犬じゃから、

灰も粗末にしたくないと思うて、抱えて行きおったところが、

風の吹いてきて、その枯れ木に灰のついたところが花が咲きましたから、

こうして見せおっ」と。

「この爺は、良か爺」て言うて、そいばたくさん金を戴いてな。

そうしたところが、またそれ隣の爺が、

その後も残りの灰を笊に入れきらいたところがない。

そうしてわがまた、殿様のお帰りの時、

「花咲爺、枯れ木に花を咲かせてみせよ」て言うて、

その、木に座ってもう、今度ヒョコッて来てもう花を咲かせて、

金を貰わんばと思うてから、爺がおったおころが、

「まあ一度咲かせろ」て、言うたところが、

「花咲爺、枯れ木に花を咲かせる」ち言()うてから、

ふったところがもう、灰が散ってしもうて、

そこのお殿様も灰だらけになって、

「こりゃあその、偽者(にせもん)だから捕まえてくびれ」て言うて。

そいぎくびられて残して、お殿様は帰ったていうことだけ聞きました。

そいばっかい【それでおしまい】。

(出典 未発刊)

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