唐津市北波多村志気 金野尾利武さん(年齢不詳)

 唐津の裏町というところに勘右衛門さんという人が住んでいた。

ある日、勘右衛門さんは山本の新月寺というお寺の前で、

なすびの味噌漬けの落ちているのを見つけ、

拾って食べたらおいしかったとか。

ある人が、いま貴重な味噌漬けを落した。

その人が山本のあたりへ行っていたら勘右衛門さんと出会ったから、

「もし、もし。ひょっとしてこちらへ歩いて来よって、

なすびの味噌漬けどま落ちちょったつは知らんか」

「なしかぁ」と聞くと、

「あれは三年間ですね、痔の悪かて尻に挟んでいたもんで・・・」

と、言われた。

勘右衛門さんは、そのことを聞いて胸が悪くなってきた。

気分が悪くなった勘右衛門さんは、

おばさんが山本に住んでおられたので、そこへ立ち寄った。

「ありゃまあ、勘右衛門は久しぶり来たね。きょうはおまえ、

もう晩に食べる米のなかどん、白ご飯ば炊いて食わせよう」

と、貧しいおばさんは言われた。

勘右衛門さんはおばさんが米を洗われるのを見ていたら、

鼻水がタラタラと落ちていた。

「勘右衛門どん、今できたけん、早よう食べんね」

と、おばさんが言うと、

「きょうは、自分な腹ん具合の悪うしてどんこんいかん」

と、勘右衛門は言って自分の家へ帰った。

おばさんは白ご飯がもったいないと思って、こうじにして甘酒をつくった。

ある日、勘右衛門さんはおばさんの家に立ち寄った。おばさんは、

「勘右衛門どん、甘酒のあっけん飲まんね」と言うと、

「うぅん。そりゃ大好き」と、勘右衛門さんはうまそうにいただいた。

勘右衛門さんは甘酒がうまかったので、

「甘酒、どがんしてつくったか」と、おばさんに聞くと、

「おまえ、折角この前に焚いた白ご飯ば、

『おなかの具合の悪か』て、帰ったけん、

もったいなかけん、こうじつくって甘酒つくったよ」

と、話された。

 それで勘右衛門さんは、また具合が悪くなったと。

(出典 佐賀の民話第一集 P179)

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