藤津郡太良町川内 川瀬勝男さん

 むかし、むかし。

あるところに侍と三人の子供を残して、お母さんは亡くなった。

やがて侍は再婚した。

ある日、侍は参勤交代のため江戸へ行くことになり、三人の子どもに、

「おまえたちは、父ちゃんが戻って来んまでおとなしくして、

かくさん【おかあさん】の言わすことはよう聞いて、正直にしておらんばできんばい。

一番頭んとには、唐の鏡を買うてきてくるっ。

二番目には、唐の硯石を買うてくるっ。

三番目には、越後のかたびらを買うてくるっ」と、言って出かけられた。

二番がくさんは、たいへん三人の子供を憎んでいた。

そして、なんとかして三人の子供を殺そうと思って、釜に湯をわかしていた。

釜の上に板を置いて一番頭に、

「あんたは、父ちゃん見たかね。

ここにあがって見ると、父ちゃんの江戸におらすとのしるっばい」

と、二番がくさんは言ったので、

「見たか。見たか」と、一番頭の子供は釜の板の上に乗った。

二番がくさんはその板を引張りはずした。

そうして、一番頭の子供を湯で殺してしまった。

二番目の子供も同じようにして殺してしまった。

二番がくさんは、三番目の子供に、

「おまえも見たいかぁ」と言うと、

「父ちゃんに会いたかぁ」と言った。三番目の子供に、

「あの人たちんごとひやあらんけん【入らないから】、見てみんさい」

と、二番がくさんは言った。

そして、無理に釜の板の上にあげて板を引張り、三人目の子供も湯で殺してしまった。

二番がくさんは三人の子供の死骸を裏の竹籔の所に埋めた。

そこから、いつのまにか三個の竹の子が出てきた。

それからしばらくたって、三本の竹はみごとに大きくなった。

虚無僧さんがそこを通りかかった。

そして、立ち止って、

「尺八の竹によかとのあっ。所望させてくれんかい」と、虚無僧さんが言った。

すると、

「やっても・・・どうあろうどん、

尺八を江戸じゃ絶対に吹いてくるっぎでけんばい【くれてはだめですよ】」

と、二番がくさんは条件を出して、竹を切って与えた。

虚無僧さんは戴いた竹で尺八を作った。

江戸では吹いてくれるなということが虚無僧さんにとっては好奇心が働き、

江戸に行って尺八を吹いた。

その音は不思議と、

 

とうちゃん恋しやチンチロチン かかちゃん恋しやチンチロチン

はちまん釜で湯で殺した 唐の鏡は何にしゅう

唐の硯は何にしゅう 越後のかたびら何にしゅう

 

と鳴った。

侍のお父さんは尺八の音を聞き、どうも自分に思いあたるようだと思いながら、

「もう一度、尺八を吹いてくいろ」と、虚無僧さんに頼んだ。

尺八の音は前と同じように鳴った。

お父さんはどうも子供のことが気にかかり、家へ帰って行った。

お父さんは江戸から戻ってきて、

「いま、帰った。おい、三人の子供はどうしたかぁ」

と、二番がくさんにたずねた。すると、

「いまは遊びぎゃ行たとっじゃろう」と言ったら、

「おれが会いたかけん、早く連れて来い」と、お父さんは二番がくさんに言った。

おかあさんは三人の子供に似ている者を近所に借りに出かけた。

その聞に、裏の竹籔から鶏が三羽でてきて、おとうさんの膝にあがって、

「コッコッコッ」と、なつかしがったように鳴いた。

お母さんは三人の子供を借りてきて、

「こいが何某。こいが誰だ」と言うと、

「こら!おれの子供じゃなか」と、お父さんは大声で怒鳴った。

二番がくさんは、子供を殺したことを白状した。

お父さんは余りの悲しさと憎さのために、

「おまえを征伐すっ」と言って、二番がくさんを殺してしまった。

(出典 佐賀の民話第一集 P223)

 

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