佐賀市成章町 宮地ニワさん(明39生)

 おタツちゃん方んにきで、おタツちゃん方のおんじさんさい。

山さい塩物(もん)ん売いや行きないよった、年中。

塩鯖てぇろう、塩鯨てん何(なん)じゃいかんじゃい。

そいぎその、朝もう、早う二時ごろから、その、起きてさい。

神埼通(とお)いば車力引いて行きなったい。

そいぎんと車力ば動(いご)かさんて。

その狐がさい。そいぎぃ、

「こん畜生(ちきしょう)、また、あの、引っ張いよっかあ」ち言(ゅ)うてから、

おんじさんの、もう、木刀で払いなってちゃん。

おんじさんな草鞋(わらじ)履いとんなっと。

木刀で、こう払いなって。

そして行くばってん、もう一間ばっかい行くぎまた引っ張って。

そいぎんたあ、

「もう、またそがんわが動かんない、俺(おい)もドッコイすっじゃあ」ち言うて、

そけぇおんじさんの煙草どん飲うで座い込うどなって。

そいぎんと、塩物てんなんてん盗ってその挙句そいば食うてっちゃん。

七つ八つの頃の話。

千代田町のインドウんにきのあの土井ばおった。

直鳥(なおとい)から先んにき。

直鳥といよいたまちっと先の方の土井。

インドウの土井て川のあっ。

あすこば鳥栖さい行く時ゃ歩いて行きよったばい、今。

大体、道のほんに良(ゆ)うなっとんもん。

野狐の姿は見えじぃ、女(おなご)に出(ず)って。

良一か女(おなご)の先んにき立っとってばい。そいぎんたあ、

「いっちょ、化けといはたすっ」ち言(ゅ)うてから、

おんじさんの木刀で払いなってじゃん。そいぎんとは、消ゅって。

そしてもう、煙草どん飲うで、とっこいとしてから行きなって。

何遍でんそがんすってよ。

(婆ちゃんは騙されたごとなか。そがん、夜さい行たごとなかけん。)

そがんおんじさんの年中言うて聞かせないよった。

そいぎぃ、怖(えす)かもんの聴きたがいで聞きよった。

そいけん、おタッちゃんのあぎゃん言うたい。

おタツちゃん知っといよう。

お父(とっ)たんの話して聞かせないよったもん。

(出典 未発刊)

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