嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

お大師さんと行基菩薩さんと、連れ立って旅に出かけんさった。そん時、野も山も毎日毎日歩かれて、いよいよもう、帰りがけやったて。

ある村に来んさったぎねぇ、植木市のあいよったて。もう植え木のいっぱいあって、誰(だい)でんそこを見ぎゃ来(き)んさった時の、菩薩さんもお大師さんも、そこに来(き)て先ず、そいぎ菩薩さんの言んさっには、

「私(わし)ゃあ、吉野のお山が、我が住まいと決めとった。あそこは寂しゅうしてならん」と。

「そいけん、人が集まって来(く)るような木ば植えたいなあ」て、言んさったあて。「人の沢山(よんにゅう)来(く)っと、桜の苗木が良かあ」て言うて、桜の木ば選んで、菩薩さんは帰れんさった。一方、お大師さんはどうかちゅうと、

「私(わし)も、苗木を買おうと思うとったあ」て。「私はなあ、私の住む高野山な緑豊かな山にしたいもんだあ」て言うて、杉の苗木ばいっぱいみやげに買(こ)うて、お帰りになさったて。

そういうことでねぇ、吉野山は桜て。吉野山は桜て、人目千本ていうごと名所になった。人も沢山に来(く)って。いっぱい春になっぎぃ、賑(にぎ)やかなこと、賑やかなこと。まあ一報のお大師さんのおんさっ高野山はどうかちゅうぎぃ、杉が恐(おっ)ろしゅう茂って、そりゃあ、豊かなもん。緑のお山になったちゅう。

そういうことです。

これはチャンチャン。

〔九〇 自然説明伝説(木)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P784)

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