嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

田舎にさ、「鳶(とんび)が鷹ば生んだ」ていうこと、ほんに親はさほどもなかけれども、利口な息子が生まれたもんじゃったてぇ。

ある日、庭先で、もうその子供の友達が沢山(よんにゅう)ガヤガヤ、ガヤガヤ遊(あす)んどったちゅうもんねぇ。そうして、利口か息子もその中に混って遊(あそ)んどったて。そいぎぃ、ところが急にこの利口な息子、何を思ったのか、裸足(はだし)のまま座敷にタァタァタァて、上って来て、座敷にも縁にも足跡、泥足をテンテンテンテンて、つけて上ったちゅうもん。そいぎぃ、おっ母(か)さんがこいば見て、

「裸足で上っちゃいかんよ。裸足ではいかんよ」て言うて、叱ったて。

そいぎぃ、遊んどったよ、そん子供達ゃ、大声で叱(くり)んさったもんじゃい、ビックイして全部(しっきゃ)あどめ、もう履いとった下駄どまそこん辺(あたり)いっちぇて(残シテ置イテ)帰ってしもうたて。

そいぎぃ、利口な息子はさ、その投げ捨ててあった下駄ば履いて、今度は下駄履きのままで座敷に上って来たちゅうもん。そいぎぃ、またお母さんの、

「こら、馬鹿が。何(なん)で下駄履(ひ)ゃあて上って来(く)っかあ」ち言(ゅ)うて、叱(くり)んさったぎぃ、利口な息子は、

「『裸足で上っていかん』ち言(ゅ)うて、お母さんが叱(くる)うたけん、今度は下駄履きで上って来た」ち言(ゅ)うたそうです。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P606)

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