嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

もう一(ひと)人(い)の百姓さんがほんにいろいろ野菜作いの上手じゃったてぇ。そうして、その百姓さんが大根ば丁寧に蒔(み)ゃあて、良(ゆ)う、あの、草どん取ってしんしゃったぎぃ、恐ろしゅう太うなったちゅうもん。ぎゃん太うなんもんじゃろうか、ちゅうごと、太うなったてぇ。あの大根の太うなった時、沢山(よんにゅう)近所ん者(もん)も、犬も、猫まで加勢受けて、大根ば引きんさった。「ヨイコラショ、ヨイコラショ」と、話聞いたいどん、

この百姓の男には、誰(だーい)も加勢すっ者のおらんと。そいぎぃ、

「泥から上んとで多(うう)かいすっごたあ」ち言(ゅ)うて、土から覗いとった白(しろ)うか大根ば、ポキーンて、金槌で打ちんしゃったて。

あったぎねぇ、その中からさ、大工さんが出て来たい、左官さんが、

「ほら、こんにちは」ち言(ゅ)うて、職人さんが一(ひと)人(い)二人(ふちゃい)じゃなし、ゾロゾロゾロで出て来たちゅうもん。

「ありゃ、お前さん方どぎゃんしてこがん所(とこれ)ぇ来とんさったとう」ち言(ゅ)うて、そのお百姓が聞いたぎばい、大工さんでん左官さんでんさ、

「私(あたい)達ゃ、こぎゃんあんたも知っとっごと、職人じゃろうがあ。そいぎぃ、今は寒かいどん、春になっぎ立派かとうば立ちゅうで思うて、今ここで話し合(や)あおったあ。春になっぎ立派かとうば立っばーい」て、言んさいたちゅう。

春になっぎぃ、大根のとうが立つて。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P606)

標準語版 TOPへ