嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかし。

ある村に、法螺(ほら)吹きの名人て言われる男のおったて。蝿(はい)のごと小(こま)ーかとでん、棒のごと太う言う。そいけん、この人んことを村の人はいっちょん信用ばせんで、大法螺吹きて言いおらしたもんねぇ。あいどん、この男は竹を割ったごとサッパイしとったけん、大人でん子供でん、この村でこの男ば好(し)いとったちゅう。

そいぎある時ねぇ、庄屋さん所(とこ)に立派かお客さんの来(き)んさいたて。そいぎぃ、あの男は話のチョッとこつや(節マワシ)のように言うけん、あの男ばお客さんの相(やあ)手(て)に、あの、申し受きゅうかにゃあ、て庄屋さんの思うて、その法螺吹き男ん所(とけ)ぇ行きんしゃったて。

「お前(まい)さん。家(うち)、お客さんのあっけん、明日(あした)話合(や)あに、相(やあ)手(て)に家(うち)に来てくれんやあ」て言うて、行きんさったぎぃ、その男が言うには、

「庄屋さんない、何時(いつ)ーでん俺(おい)ばこき(接頭語的な用法)下(おれ)ぇてばっかいおろうが。俺(おい)が話どんすっぎぃ、『嘘ばあっかい』て言うし、そぎゃん言わるっぎ話(はに)ゃた甲斐(きゃ)あのなか。『もう、そぎゃんはどぎゃんでん言わん』て、約束してくるっぎ来ても良かあ」て、言んさったぎぃ、庄屋さんな、

「いんにゃあ。お前(まり)ゃあ、加勢しに来てくいろて相談してからは、絶対そがんこた言わん。けちつけたい何(ない)したいすっもんかん。そん代わり嘘ばあーっかいして、言うたたこんな、私(わし)が言うぎお前さんに百両やろうだい。約束すっぞうー」てまで、言んしゃった。そいぎ大法螺吹きさんな、

「そんぎ確かに、嘘ばっかいと言うた時ゃ百両くるっなあ」て、言うたら、

「間違いなか」て、言んしゃった。

そいぎぃ、出かくっことになってた。そうして、お客さんにその、話すとば殿(とん)さんの城に来んさいたて(「来る」と「行く」をイコールに使う)。あったぎぃ、天気は良(ゆ)して鳶(とんび)がさい、ピーヒョロピーヒョロ空に鳴きよったちゅうもんねぇ。そいぎ駕籠ん中の殿さんな、「あいは何(なん)ちゅう鳥かあ」て、言んさったぎぃ、家来は、

「あれは鳶(とび)でございます」て、言うてたじゃいもん。あーったぎぃ、その鳥の急にそがんやり取りばしよったぎ舞い降りて来てばい、殿(とん)さんの頭にピーッて、糞(ふん)ばひっかけたちゅうばい。そいぎ家来どもは大騒ぎ、

「こりゃあー飛ばした」ち言(ゅ)うて、新かとと取り替えたちゅう。

そいぎ恐ろしか、ここまで話しとっ時、そいは嘘じゃろうて、庄屋さんな口まで出(じ)ゅうごたったて。今んすぐそぎゃん、取り替えたいせじ(シナイデ)で行きおんさったくさい、て言いたかったいどん、あっ、こいば言うぎ百両かかっとっ、危ない危ない、百両、百両と思うて、黙っとんさいたいて。そうして、また先ばその、大法螺吹きは話(はに)ゃあたて。そん新しか駕籠で、ズーッと殿(とん)さんの駕籠に揺られて行きよんしゃったぎぃ、また鳶(とび)がピーヒョロピーヒョロて、鳴くちゅうもんねぇ。そいぎ駕籠から、殿さんは首ば出して、

「今日、よく鳴くなあ」ち言(ゅ)うて、顔ば出しんさったて。あーったぎねぇ、その鳶(とんび)は殿さんの首にまた糞ばピッて、落としたもんけん、殿さんの、

「余(よ)の首ば取り代えようー」て、言いんさったて。そいぎぃ、

「家来達が」て、そこまで語っ時、庄屋さんは、

「首は取り代えるもんきゃあ。嘘ばっかし言うてぇ」て、ちぃ言んしゃったて。

あーったぎ百両の罰金をうまーいこと、その大法螺吹きに取られんさいたちゅう。そいで百両の罰金。

そいばっきゃあ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P592)

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