嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

仁王ていうて、恐ろしか力の強かとのおらしたちゅう。

その仁王さんに力較べばすっぎぃ、勝つ者(もん)ななかったてぇ。

あったいどんねぇ、ズーッと遠か所にはねぇ、

賀王ちゅう名前の付(ち)いた男の、まっと確(たしき)きゃあ強かろう、

て評判じゃったてぇ。

そいぎぃ、

この仁王ていうとはね、

あいばどっちが強かろうか、賀王と力較べばしてみゅうかにゃあて、

そのことば思うたぎぃ、たまらんごとあんしゃったてぇ。

そいぎぃ、

早速尋(たん)ねて行きんしゃったて。

そうして、

折角その賀王の家(うち)行たいどん、賀王なちょうど留守やったて。

そうして、

家にはねぇ、年寄いの婆ちゃんが留守番しとらしたて。

そいぎぃ、

「ごめんよ」ち言(ゅ)うて、行たて。

「あの、賀王が留守」て聞いて、

「一時(いっとき)待とう」ち言(ゅ)うて、上がっとらして、

ヒョッと見てみたぎぃ、

鉄の棒の太ーかとの二本そこん辺(たり)あったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、仁王さんがその婆ちゃんに、

「ありゃ、何(なん)ですかあ」て、聞いたぎぃ、

「あれなあ。ありゃあ、賀王の箸だよう」て、婆ちゃんが教えたて。

また、右ん方がこうして見たぎぃ、

石臼んごたっとの太かとのあったちゅうもんねぇ、台の上。

そいぎぃ、

「ありゃあ」て、聞いたら、

「あれなあ。ありゃあ、賀王のお湯呑みだよう」

て、婆ちゃんが言うたて。

あったぎねぇ、

仁王は、もうビックイ、

ぎゃあーん重(おふ)たかとの強かとの太かとば使うごたっ賀王ないば

怖(えす)かごと力の強かろう、もう帰ろうかにゃあ、

どうしようかにゃあ、もう折角力較べしゅうと思うとったいどん、

帰ったがましじゃいわからーんて、

もうオロオロしおったぎぃ、

ミシィミシィ地響ききのすっちゅうもん。

そうして、賀王んちゅうとの帰って来たて。

そいぎ仁王がねぇ、

「あんさんと力較べしゅうで思うて、こけぇ待っといましたあ」

て、言うたぎぃ、

「そいないばさ,取っ組うでみゅうかあ。庭に来らっしゃい」

て、賀王さんが言うて、

山から帰るなりねぇ、取っ組み合いしたぎねぇ、一遍コロリ。

もう、しゃいもなか(テマ、ヒマガカカラナイ)ごと

仁王さんな負けたて。

あいどん、

今度(こんだ)勝つかわからんと、

まあ一遍と思うて、しかかっていたて。

あったいどん、

投げ飛ばされたちゅう。

もう悔しゅうしてたまらん。もう悔しゅうしてたまらん。

ああ、ぎゃん遠か所(とこ)まで力較べしゅうで来て、

もうしゃいもなし負けたて言うぎぃ、

帰りにっかにゃあ、と思うて、

一心に神仏さんに拝(おご)うでさ。

そうして、

「日本の神さんも仏さんも、私に一遍勝たせてくんさい。

一遍で良かけん、賀王に勝たしてくんさい。

あの、神仏さんのあなた達の家来になって、

何時(いつ)ーうでんこれから先ゃ、あんさん達の門の前に立って

本尊様ばお守りいたしますけん、

どうぞ、三度目にゃ一遍ないとん、賀王に勝たしてくんさい」

ち言(ゅ)うて、

もう一心にもう、その、日本の神仏さんを拝ましたちゅう。

そうして、

「『三遍勝負』ち言(ゅ)うて、まあ一遍取り組んでみゅうか」

て、賀王に申し込んだぎぃ、

「そうやー」ち言(ゅ)うて、じき応じたもんじゃい。

そいぎ二人、

「やー」ち言(ゅ)うて、取り組んだちゅうもんねぇ。

あったぎねぇ、大抵初めは押されおったいどん、

足ば踏ん張って、

「負けーん」ち言(ゅ)うて、押し返したぎぃ、

もう賀王をコロッと、そけぇ投ぐっことのできたちゅう。

そいぎ仁王はねぇ、

「一遍勝ったけん、まあ、こいで私も本望。

あんさんな強いなあ」ち言(ゅ)うて、帰らしたて。

そいから先ゃあ仁王さんはねぇ、お寺や神社の門の前に立って、

本尊様を約束どおりお守りばしおんしゃって。

そいけん、何処(どけ)ぇであっても、

門の所には仁王さんの立っとんしゃってよう。

そいばあっきゃ。

[四八〇 仁王と賀王(AT一九六二A)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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