嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかしむかし、むかしねぇ。

もう村に三軒家が並んであったてぇ。

右側の家は米蔵を二つ持ゃっ長者さん。

左側の家は金蔵、金蔵はねぇ、この人も二つもあっ長者さん。

あったいどん、

真ん中の家はチョッと小【こーま】か家でねぇ、

家ん中は何【なーん】もなか、空っぽ。

あったいどん、

中【なき】ゃあ住んどん息子は、気の利いてね、

どうかして金持ちになりたい。

金持ちも良かにゃあて、一生懸命念じとった。

どぎゃんかして思うようにいかんかなあ、と思うたもんじゃい、

貧乏人の息子が、晩にね、我が家【や】の屋根の上に登って、

太鼓と鉦ばドンドンやって叩【たち】ゃあた。

太【ふと】ーか声で叫【おろ】うだてばい。

「両方の端の家【いえ】はすっからかん、

中の家、いっぴゃあなれ。

両方の端の家すっからかん。中の家、いっぴゃあなれ」

ち言【ゅ】うて、呻【おめ】ぇたて。

そいぎ両方の長者さん達ゃ、表さい走り出てみたぎぃ、

「正月のくっ時、縁起の悪ーか。

『うちん家どますっからかんになれ』ち言【ゅ】うて、

誰【だい】か呻【おめ】きおっ。

ああー、ありゃ貧乏の家【うち】の息子。

相手どんませじぃ、

『両方の家はすっからかん、すっからかん。中の家はいっぴゃあなれ』

て、どんどこやって、ヤアヤア言いよっどん、

もう困ったもんにゃあ。

どうしたらもう正月のくっとけぇ、良かろうかあ」

て、両方の蔵持ちさん達ゃ、相談しんしゃったて。

そうして、

「あいば、一時【いっとき】にゃ

使わん蔵ばいっちょずつやろうかあ」

て、決めちゃったて。

そうして、

家に籠【こも】っとっ息子に、

「米蔵ばやっから降りろう」

て、右ん方のおったん【二人称ノオ前】言んしゃったぎぃ、

左の方も、

「金蔵やっけん降りてくいろう」て言うて、

呻【うめ】きんしゃったぎぃ、

ようようしてジャンジャンバラバラば止めるて、

米蔵、金蔵ばいっちょずつ貰うて、

良かったにゃあ」ち言【ゅ】うて、降りて来たてぇ。

そいばあっきゃ。

[一二三  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P394)

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