嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかしむかしねぇ。

昔は紺屋【くうや】さんちゅうて、

もう藍【あい】染め屋さんの瓶の太ーかとの地下に埋まって、

そぎゃん所【とこ】のあったもんねぇ。

そこに息子の久しぶりに生まれたちゅう。

ところが、その息子が気の利いとっこと、気の利いとっこと、

「私【あたし】ゃ下【しち】ゃあどま寝ん」て。

「二階ば作ってくいごさい」て言うて。

そいぎぃ、

たった一【ひと】人【い】久しぶりに生まれた息子もんだから、

二階ば作ってやっぎぃ、

二階部屋から柿の木の高【たっ】か所【とこ】さい、ピヨーンて、

飛うで行くて。

恐ろしか鳥【とい】のごと、天狗さんのごと。

「なんか、お使いにやる」て。

「あら、もう行たて来たねぇ」

て、言うごと、

じき行たて捌【さば】きゃあて来【く】っ。

そいからまた、

喧嘩しおんしゃっても、あら、それはこうだと理屈ば立てて、

その喧嘩を治めてやる。

上手に仲裁すっ。

とても気の利いとる。こんな気の利いた者は珍しかった。

そいで皆、

「あの紺屋さんの息子は、才に猛【たけ】とっ。

神さんの乗い移【うっ】とっと」

て、言おんさった。

「体の具合が悪かあ」て、言うとやったぎぃ、

「何処【どこ】ん悪かあ」て、じきその悪い所ば教えたり、

薬の在【あ】り処【か】ば教えたいで、

じきーよう治るちゅうもんねぇ。

「そぎゃん不思議なあぎゃんとでもう、

紺屋さんどんすっとよいか、お医者さんごたっ。

ああ、腰の痛か者も、目の見えん者も、腕の上らんで困る者も、

出【で】来【き】物【もん】のできた者も」て言うて、

医者さん方んごと来【く】っけれども、

もう簡単にこの紺屋の息子が治すて。

ほんに不思議かて。

ところが、そいから十年ばっかい経ったある日、

「もう治しゃきらん」て、その息子が言うて。

「もう病人な一【ひと】人【い】でん治しゃきらん」て。

「もう何【なん】じゃろうかあ」て、

そのお父さんの聞きんしゃった。

「あの、仙人の谷に生【は】えとった薬【くすい】の、

もう種の無【の】うなった。

仙人の谷から薬ば持って来て調合しよったけん、

皆の病気を治すことのできおった」て。

やっぱり、あの、病気にいちばん効く薬ばつけんことには

病いは治らんだったと。

才童でも神様でもなかった。

そいばあっきゃ。

[一二二  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P393)

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