嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

山にはねぇ、鬼どんが沢山(よんにゅう)

棲んどったてぇ。(そん時分の話ばい。)

その鬼どんがねぇ、里さい来ちゃあ、

子どんば取っていち(接頭語的な用法)

食うもんじゃい、もうほんに人間どんが困ってさ、

神さんに、

「助けてください。助けてください。私達ゃ、

もう子どんもいち食われて困ります」ち言(ゅ)うて、

頼んだて。そいぎぃ、神さんのねぇ、

鬼どんば全部(しっきゃ)あどめ集めて、

「人間の年越しに撒(ま)く豆ん中でね、

芽の出(ず)っとの家(うち)の子供は

取って食べても良か。そいどん、

芽の出ん家の子どんば取ってうち食うぎぃ、

お前(まい)達の金棒ば取い上げてしまうぞう」

て言うて、きつう言い渡しんさいたちゅう。

そいぎぃ、

「鬼達は金棒ば取い上げらるっぎぃ、

我がどま何(なーん)も力のなかごといちなっ。

そいけん、承知すっよいほかなか。

誰(だい)でん承知しゅうでぇ」て言うて、

皆承知したてぇ。

ところがねぇ、神さんな人間に言んさるには、

「今から先ゃ、年越し豆ば撒く時ゃ、

豆ば良(ゆ)う芽の出んごと炒(い)ってから撒けよう」

て、言んさったいどん、

怠け者が人間の中(なき)ゃあおってさ。

そいで、豆を良(ゆ)う炒らじおった者もおってねぇ、

その良う炒れとらんとば撒いたちゅう。あったぎぃ、

じき芽の出たちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

じき鬼どんがやって来たと。

「子供ば出せ。お前(まい)の家(うち)の子供ば出せ」

て言うて、怠け者の家来て、

喚(わめ)くてじゃんもん。

そいぎぃ、怠け者の言うことにゃ、

「俺(おい)も良う豆ば炒ったとばい。

まあーだ芽は出とらんばい」て。

あいどん、鬼どんは承知せん。鬼どま、

どぎゃんかちゅうぎぃ、

千里眼ていう何でんかんでん見通すごと

目ば持っとんもんじゃいね、

もう豆の芽の出たいろ出んろわからんうちから、

あの、ちゃーんと、

あの怠け男は豆ば良う炒らんしゃろて、

知っとったけん来たと。そうして、

「子ば出せ。子ば出せ」ち言(ゅ)うて、

怠け者の所(とけ)ぇ来て、鬼の喚くもんじゃい、

怠け者は、

「神様、神様。お助けてください。

私(あたし)の子はいち食わるっぎぃ、

どがんしゅっなかあ」ち言(ゅ)うて、

もう一心になって、その神さんば拝んだて。

そいぎぃ、神さんの出て来て、

鬼達の前に来て、

「鬼ども、この豆は豆に違いなかばってん、

まあーだ年越しの豆じゃなかぞう。年を越しとらん。

節分にならんば、

『来年』て言われん。

節分に撒く豆の芽の出た覚えんなか。

お前達のうろ覚えして、

『子ば取って食う。子ば取って食う』て言うた、

いかん。この怠け者の家(うち)の子供は、

もう返せ」て言うて、助けてやんさいたちゅう。

そいから先ゃ、この怠け者も一生懸命、

節分には豆ば炒って、

「福は内、鬼は外」ち言(ゅ)うて、

豆ば撒くごとなったちゅう。

そいばあっきゃ。

[六三  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P343)

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