嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

一(ひと)人(い)の男がさ、川で釣いをしおったあて。

そいぎぃ、

川上の方からさ、とても身なりの良か品のある男の人が、

ユラユラ、ユラユラ流れて来んさったあて。

その人を良(ゆ)う見てみたぎぃ、稲穂に乗っとんさってじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、その男はさ、

山や川の様子に気をとられて、釣りをしている男には目もくれじぃ、

ドンドン、ドンドン稲穂に乗って来た男は

流されてしみゃあよんさったてぇ。

そいぎぃ、

川下(かわしも)の方は流れが速かったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

釣いしおった男が見おったぎぃ、

引っ繰り返んさったごたってじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、

釣いの男はもう、釣り竿も放ったらきゃあて、

「ああ、大変だ、大変だ」ち言(ゅ)うて、

川さい飛び込んで溺れかかっておんさっ男を助けてやんさったちゅうもん。

そいぎぃ、

その稲穂に乗って来んさった男は、恐ろしゅう喜んでさ、

「お陰で命拾いをしました。有難うございましたあ」ち言(ゅ)うて、

お礼を言うて、

「これは助けていただいたお礼です。受け取ってください」

ち言(ゅ)うて、一粒の籾種(もみたね)をやんさったあて。

そいぎぃ、不思議な人に会うたにゃあ、と思うて、

「有難うございます。戴きます」ち言(ゅ)うて、

一粒の籾種を貰うて行たて、釣いの男はじき田圃に蒔いたてじゃんもん。

そいぎぃ、その穂が恐ろしか良(ゆ)う実のって、

黄金(こがね)の稲穂が実って

男は、そいから先ゃもう、何時(いつ)ーでん良か作いじゃったて。

そうして、暮らしても楽になったちゅう。

そいで、

誰ーでん村の人達にも、その籾の種をわけてやったて。

そいけん、

その辺(へん)の村は全部(しっきゃ)あが、

分限者さんで金持ちさんになったて。

そいでねぇ、

「川から流れて来(き)んさった品の良か方は、

きっと神さんじゃったばい」て言うて、

「お米がでくっぎぃ、いのいちばんにあの神様にお礼に差し上げにゃあ」

ち言(ゅ)うて、川にお供えしよったていうことよ。

そいばあっきゃ。

[五一  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P328)

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