嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

山奥の村に、とても人助けする猿のおったちゅう。

その猿はもう、ほんに年寄(としよ)いの猿じゃったちゅうもんねぇ。

そいぎもう、

山道ば迷うて、人の難儀ばしおったぎぃ、

チャーンと里さい出(ず)っ所まで、

猿のピョンコピョンコ、ピョンコピョンコして連れて来よった。

そいから、

何か道の途中で、

「お腹の痛かあ」ち言(ゅ)うて、

かごんだいなんかして苦しゃしおんしゃ村人のあっぎぃ、

猿酒ちゅうとば飲ますっぎぃ、

じきお腹の痛かとの止まったいすっごたっ、

ほんに人助けばすっ猿のおったちゅう。

そいで、その猿は、猿の国の山奥にあって、

「ありゃあ、大抵年くった王さんばい」ち言(ゅ)うて、

里の村の者(もん)の全部(しっきゃ)あ言うて、

その猿を大切にしておったてぇ。

そうしたとっころが、

皆、あの猿の出て来(く)っぎぃ、猿の通って来る所を通い良かごと、

道ば避(よ)けて通るごとして、大切にしおったて。

ある村の怠け者がね、その猿ばちぃ殺(これ)ぇたちゅう。

そいぎぃ、

「あぎゃん、良か猿ばちぃ殺ぇてぇ、冗談(どうたん)のごと」て言うて、

もう皆がその怠け者ば好かんやったてぇ。

そこん辺(たい)いっぴゃあ猿の死んでからちゅうもんな、

その村には不幸な目ばっかい合うたちゅうもんねぇ。

その怠け者の家から火が出て、大火事になってみたい。

そいから、

大水が出てその怠け者の家(うち)は、

いちばん口家(え)から根こそぎひん(接頭語的な用法)流されたい、

あの猿が死んでからちゅうもんな不幸の続きよったため、

村の者は、その怠け者を憎むごとになったて。

ところが、

ほんにあの、その怠け者もね、

そぎゃん悪かことの余(あんま)いたび重なって、

我が達も老い先もなかごとなったもんじゃい、

ほんに村ん者に世話になっとこれぇ、

俺(おい)が、あの猿ばちい殺(これ)ぇたばっかいで、

ぎゃん崇(たた)いのくっぎ良(ゆ)うなかにゃあ、と思うて、

そいから先ゃ心ば入れ替えて、ほんにあの、

村ん人にいろいろ仕事の捗(はかど)らん時ゃ行たて、

加勢したいすっごとして、

自分も貧しいながらどうにか真っ当な人間の暮らしをしおったてぇ。

そいぎねぇ、

だんだんその村にも不幸が訪れんごとなって、

ようやく怠け者の反省で村も助かった、ていう話。

怠け者の反省ですね。

[五〇  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P327)

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