嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

長者さんの家(うち)に隣り村からきれいかお嫁さんが来んしゃたて。

そうして、三年目に赤ちゃんが生まれんさったけど、

産後の肥立ちが悪くて、その赤ちゃんは男の子じゃったて。

でも、お母さんは産後の肥立ちが悪くて、間(ま)もなく死にんしゃったて。

そいぎぃ、もう自分は死んと思う時に、その自分の子供にねぇ、

「お母さんはここにいるよう」と、話してる。

「この指輪を形見として、お前にやるから」て。

「大事にこれをしていくれ。決して人にやることなん」て、

こいだけ言って、事切れて死んでしまいました。

そいぎその、お母さんと一緒にいぞったばってん、

「大事にしてくれよ」ということを、

せんと聞きとめているから、

何時(いつ)もお母さんと思って、その指輪を見おんしゃったて。

ところが、小さな子供を抱えて行たから、

間(ま)もなく二番目のお母さんを長者さんは取んしゃったて。

そして、その二番目のお母さんにも、また男の子が生まれたから、

自分の子をもう、とっても大切に大事に、

何(なん)でも良くしてやるもん。

「この子さおらんぎ良かのに、

この子がおおったために、ほんに自分はもう、

損すっごたっ」ち言(ゅ)うて、

二番お母さんが大変困らせて、

この子はご飯どま一時(いっとき)食べんぎ良かとこれぇ。

時にゃ、お父さんが遠い所に旅に行た時なんかは、

ご飯食べさせんじゃったて。

そんな時、お母さんから貰った形見のお指輪に、

「ひもじい、何(なん)か食べたい」と言うと、

すぐお握りが、二個も三個も出てくる。

そいから、お父さんがいない時には、

「お前(まい)のごたったあ、

もう何処(どこ)さんないとん行け」ち言(ゅ)うて、

寒い夜に外にほっとらかされとっ。

本当にその指輪に向かって、

「お母さん、寒ねぇ。チョッとこごえ死ぬように、今夜は寒いよ」と言うと、

すぐ、暖かーい布団が出てくる。そして、

この指輪から大変もう、あの、助けられて。

そいぎぃ、この二番お母さんが知るわけ。

「ありゃあ、あの指輪を不思議な指輪たい。

あの指輪のお陰、何時(いつ)まってん元気でいる。

そい、指輪ばやれ」て、おっ盗(と)ってしもうた。

そうして、何時(いつ)ーでも指にはめとるし、

夜、口の中にしまっているんですって。

その不思議にねぇ。それを知った鼠がねぇ、

「坊ちゃん、二番お母さんが指輪を口の中に入るっと、

チョッと取り出しにくいねぇ。私が盗ってあげましょうかあ」

そうしてねぇ、尻尾でねぇ、夜になっとお母さんの鼻の所に、

尻尾でコチョコチョ、コチョコチョしたもんだから、

「ハクショーン、ハクショーン」て、

二本ばっかりくしゃみを二番お母さんがして、

その間にその指輪がパラーッと出たもんだから、

そいーで鼠はそれを咥(くわ)えて坊ちゃんに返してやった、

て言う、そいだけの話。

そいばあっきゃ。

形見の指輪で非常に助けられていたて。

〔四〇  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P315)

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