嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

お母さんと三人の女の子がおったてぇ。

そいぎぃ、お母さんはねぇ、

三人の子供を養うために何時【いつ】ーでん隣村に働きに、

百姓仕事をしたい、

田植えに行ったりして稼ぎおんしゃったて。

そいぎぃ、何時【いつ】んはじゃじゃいろ【何時ノ間ニカ】、

もう雇う所も決まったごとなって、

心安うなって、

「あの、泊まいがけで稼ぇに行くから」と、

言んしゃったて。

そいぎぃ、

家【うち】三人子ば置【え】ぇて行かんならんけど、

「お母さんじゃなかとの来【く】っぎぃ、

どがんこってんここん辺【たい】は山ん姥のおっけん、

夜【よ】さいは戸ばしっかい閉めて、

人の来たてちゃ開【あ】くっことならんばーい」て、

注意ば固【かと】うして、

その日は出かけんしゃったてぇ。

そいぎぃ、良【ゆ】う閉めとったぎねぇ、

ガタガタガタってして、戸を叩いて、

「今やったばあーい」て、

お母さんのごと言んしゃったて。

そいぎぇ、留守番の三人の子供達は、

「手ば出【じ】ゃあてんござい」て、

言んしゃったぎぃ、

戸の隙間【すきま】からモ

ジャモジャ毛むくじゃの手ば出【じ】ゃあたとのあったけん、

「お母さんな、そがん手はしとんしゃらんもん。

お母さんの人の来【く】っぎんとにゃ、

『戸ば開【あ】くんな』てじゃっけん」て、言うたて。

そいぎぃ、やあ、見破れたばいねぇ、

と思うて、そけぇ、

夜尋ねて来たとは山ん姥じゃったて。

そうしてまた、

一時【いっとき】ばっかいしてから、

「今じゃったばあーい」て、

トントントントンて、戸ば叩くちゅう。

「そぎゃん、

お母さんの声は怖【えす】かごたっ声じゃなかったあ。

お母さんな、何時【いつ】でん優しか声ばい」て、

三人連れで言うた。そいぎぃ、

「はあ。また、見破れたあ」ち言【ゅ】うて、帰って。

今度は、そこん辺【たい】の芋の葉を取って、

しなしやっか手ば見せてみゅうと思い、

三人の子供達は騙せるかわからん、

と思うて、今度は手には

芋の葉ばかぷせてスラスラ見せ、

「誰【だい】でん、お利口にしとったねぇ。

ただいまー」て、優しか作り声で言うたて。

そいぎぃ、

「今日【きゅう】は、

お母さん帰らんつもりじゃったないどん、

今、帰って来たよう」て、言うたて。

山ん姥のさ。

「うん。帰って来たあ」て、言うたから、

子供達は、

「そいぎぃ、手ば見せてんしゃい」て言うて。

そいぎぃ、

芋の葉をかぶせた手ば戸の穴からこうして出すぎぃ、

スラースラーしたけん、

「あら。今度はお母さんの手のごと柔らっかあ。

ほんなこてお母さんじゃったとねぇ」て言うて、

戸ば開けたぎぃ、いちばん下の子は、

「おしっこしたかあ」ち言【ゅ】うて、

外さい出た。

そいぎぃ、山ん姥はサーッと、

戸を開けた拍子に入【ひ】ゃあて来て、

「こらっ」ち言【ゅ】うて、

言うた。そうして、戸口から出て行こうですっ、

おしっこしに行きよっ、

いちばん小【こま】んかとばつかまえたちゅう。

そいぎぃ、上の二人の姉さんな、

「早【はよ】う逃げろ。早う逃げろ」て言うて、

一生懸命もう、急いでその、

逃げらしたて。

そうして、上の姉さんな油壺ば

抱えて逃げたちゅうもんねぇ。

そうして、川の側に木のあったとに急いで登り、

「そりゃ登れ。そりゃ登れ。

山ん姥の来【く】っけん、そりゃ登れ」て言うて、

一生懸命登ったて。

「下の子は、どがんしたろうかあ」ち、

心配やったて。

「とうとう、ありゃいち食われたかもわからん。

つかまったもんね」て、言いよったぎぃ、

二人の姉さんは悲しかったけども、

我が身の恐ろしかもんだから、

一生懸命逃げたんですって。

辺【あた】りには白い真っ白い

蕎麦【そば】の花が咲いとったてじゃんもんねぇ。

そいで、川の流れとったて。

いちばん下ん子ば食べた山ん姥は

そこの辺【あた】りをウロウロして

子供達ば捜してその木のあっところで来てみたぎぇ、

川の水に木に登っとる二人の子供の映っていたもんで、

その木に山ん姥が登って。もう登りかけたちゅう。

そいぎぃ、上の姉さんが知恵を出【じ】ゃあて、

油をズルズル、ズルズルち、

木の上からその幹にこぼしんしゃったて。

そいぎもう、

その木にしがみちいて登りかかった山ん姥は、

油でヌルヌル、ヌルヌルして滑って落ち、

滑って落ちしおったて。

そいどん登って来【く】っ。

恐ろしかもんだから、二人の子供は、

「天の神さん、天の神さん。

どうぞ、私【わたい】どんをお助けください。

何【なん】とかして助けてください。

天の神さん、天の神さん」て、

拝んだら、天からシャラシャラ、シャラシャラちて、

金【かね】の鎖【くさい】の太かとの落ちてきたて。

そいぎぃ、それにつかまって天の上さい引き上げて貰うたて。

そいぎぃ、

山ん姥も木に滑ったり登ったりしてたが、

ようやく木に登って来た。そうして、

金鎖に下【さが】って二人の子が上に行くもんで自分も、

「神さん、神さん。

何【なん】でん良かけん、

私も綱ば下【おろ】してくださーい」ち言【ゅ】うて、

言いおっとの聞こえたて。

そいぎぃ、

腐れ縄んごたっとのザーラッて、

下りてきたちゅう。そいぎぃ、

山ん姥はもう、

夢中でそれしがいちいて【離レナイヨウニ精一杯握ッテ】、

登って来【く】っ。

「ああ、怖【えす】かねぇ」て、

ブルブル震いながら天上さい登って来【き】んさっぎぃ、

山ん姥は途中まで腐れ縄につかまって来【き】たが、

ドーンと切れて、

山ん姥はかっかえて真っ赤な血の、

そこん辺【たい】いっぺぇ散らばった。

そいぎぃ、そこいらに、蕎麦の生えとった根元は、

その山ん姥の血で、

そいから先ゃ蕎麦の根は真赤に染まったちゅうよ。

そいで蕎麦の根は今でも真っ赤な血の色ばしとって。

そいばあっきゃ。

〔二四五 天道さんの金の鎖【AT一二三、三三三、一一八〇】〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P230)

標準語版 TOPへ