嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある村にねぇ、お爺さんとお婆さんと二人の女の子と、

仲良く四人暮らしおらしたちゅう。

そした、

そのお爺さんは山さい芝刈りに毎日日和の良か時ゃ出かけんさったちゅうもんねぇ。

そして、

女の子二人どま、遊びに行たてしもうてねぇ、

お婆さんは一【ひ】人【とい】我が家【え】おって、

もう昼になったけん、昼ご飯を、お粥【かい】ば

トロトロ、トロトロ炊【ち】ゃあて作いおんさったて。あったぎねぇ、

恐ろしか太か赤鬼の来てさ、お婆さんの作っとっお粥ば、

「これは、美味【うま】か、美味か」ち言【ゅ】うて、

全部【しっきゃ】あいち【接頭語的な用法】食うてしもうたちゅうもん。

そいぎぃ、

お婆さんな太か赤鬼に怖【えっ】しゃ、

部屋の隅っこで、ブルブル、ブルブル震【ふり】いよんしゃったて。

そいば赤鬼の見てねぇ、

「この女【おなご】は年くっとっけん、食べようと思うても、

婆【ばば】じゃ仕【し】様【ょん】なかにゃあ」て。

「あいどん、何【なーん】も、もう食うたなかもん」て言うて、呟【つぶや】きよったて。

そうして、そのお婆さんば、仕舞【しみゃ】ゃあには、とうとう食べてしもうてばい、

家にウロウロウロしおったちゅうもん。

そけぇまた、ふの悪いことにはそこの女の子が、お昼になって遊びから帰って来たちゅう。

その女の子の年はねぇ、十三と七つじゃったてじゃんもん。

あったぎぃ、そいば見た鬼はねぇ、

「こりゃあ、若【わこ】うして美味【うま】かごたーっ」て。

「お前【まい】どま食ぶっぞう」て、言うたて。

あったぎぃ、女の子達はねぇ、恐ろしがってさ、

そうして

部屋の隅っこにあった油壷ばいっちょ持って、

裏手にあつた柿の木に、早【はよ】う駆【か】けて行たて登ったちゅう。

あったぎぃ、

鬼も追っかけて来てばい。

そうして、柿の木に登ろうですんもんじゃい、持っとった油壷の油ば木の上から流したちゅう、

女の子どんが。

あったぎぃ、

鬼はツルツル、ツルツル滑って登られん。なかなか登ろうでしても滑って。

あったぎぃ、今度家【うち】ん中から、鉈【なた】ば見つけて来てねぇ、

木に刻みつけよったちゅう。

そいば、足掛けにして登るって来【き】ゅうでしおったちゅう。

そいば見た二人【ふたい】の女の子はねぇ、

空ば見たぎちょうど十五夜のお月さんで昼んごと明るか夜やったもんねぇ。

あったぎぃ、その十五夜お月さんば見て二人の女の子はねぇ、

「お月さん、お月さん。どうぞ、私達を助けてください」て言うて、

一心に拝んだちゅうもんねぇ。

そいぎくさんねぇ、

天から金の鎖のジャラジャラ、ジャラジャラて、落ちてきたてよ。

そいで二人の女の子は、それにつかまって天さい登って行たちゅう。

大方お月さんの所まで行ったとじゃろうねぇ。そいから先は十五夜の月の晩に外さい出てねぇ、

「お月さん幾つ」て言うぎぃ、女の子達の声で、

「十三」

まあ一人【ひとい】の子が、

「七つ。まあーだ年ゃ若い」ち言【ゅ】うて、歌うちゅうばい。

チャンチャン。

[二四五 天道さん金の鎖【AT一二三、三三三、一一八〇】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P232)

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