嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

山の村に恐ろしか欲張りのお爺さんのおんしゃったてぇ。

そいでねぇ、舌出すとでん出すちゅうことは好かんで、

何【なん】じゃいお金取いぎゃ行くぎぃ、

半日ぐりゃあ粘って、そりゃあ、何【なん】に使うと。

家【うち】ゃあ、貧乏じゃっけん、分限者さんから先、取って来【き】ございて、

いうごたっふうで、とっても、もうけちんぼうのおってねぇ。

そぎゃな評判じゃったてぇ。

そいぎねぇ、なかなかそこにもう、

嫁取いどきの息子さんがいたけども、嫁さんの来てのなか。

恐ろしゅうけちんぼちゅうことの評判にいちなって。

あがん所【とけ】ぇ行くぎぃ、使【つき】ゃあ銭でん得んばい。

おかずでんヒョッとすっぎわからん、ちゅうごたっふうで、

なかなかお嫁さんな、随分探しんさったけど、お嫁さんに来る者がおらんかったそうです。

そして、昔ゃ大方二十【はたち】ばかいでお嫁さんが来よったけども、

もう三十も越してからのお嫁さん取いじゃんちゅうもんねぇ。

そしたら、しょっちゅうねぇ、

その辺【へん】で若【わっ】か者【もん】の鍋野【佐賀県藤津郡塩田町】ちゅう所に、

楮【こうぞ】ば買いぎゃ来【き】おっ男のおったてぇ【鍋野、紙すきの里ちゅうて、

紙ばそこで作って、障子紙てぇろうのう

、上等の半紙てぇろんて、売いぎゃ来おんしゃったもんねぇ。】。

ところが、いちばん初めにその若か者が行た時ゃ、

「鍋野は、もうなかった」ち言【ゅ】うて、

「楮は、もう売らじぃ来【き】たあ」

「そぎゃんわけなか。山ば、いっちょも二つも三つも越えて、

向こん方に鍋野ちゅうて部落のある。

そぎゃーん、見ゆっ所【とけ】ぇあるもんかあ。

もう辛抱して行くぎぃ、山の向こん方にある」て。

「その手前まで行ったけん、鍋野はなかったあ」ち言【ゅ】うて、ねぇ。

【そぎゃん所ですもんねぇ。

私達、昔ゃ知らんやったあ。私達の小さいうちは、

鍋野ちゅうぎ何処んたいじゃろう、

遠【とお】ーか所【とこ】のあっと思うとったです。】そいぎぃ、

その鍋野さい使いに行くぎぃ、なかなか家どま一軒もなかもんで、

「もう、鍋野はなかー」ち言【ゅ】うて、つん戻うこともあった。

「でも鍋野ちいう村のそがんわけなかーあ」ち言【ゅ】うて、

お爺さんのつんのうて今度【こんだ】あ楮ば馬につけて、

ズウッと行きんさってぇ。

そいぎぃ、お爺さんが疲れて、ハッハ、ハッハ言んさんもんじゃから、

「ここん辺【たい】で、ちょっとばっかい休もうかーあ」ち言【ゅ】うて、

田舎道ば、山ば越えて峠ば来んもんで一休みしんさいたて。

「ワッハッハッ」ち笑うたい、

「ガヤガヤ、ガヤガヤーパチパチ、パチパチー」て、

「ガヤガヤガヤ」て、喋って、

「うまい、うまい、うまい。パチパチ、パチパチ」て、

手ば打ちよる音のしたちゅうもんねぇ。

誰【だい】じゃい、ぎゃん山ん中【なき】ゃあおっとやろうかーあ、

と思うて、小道の小【こま】ーか所ば、こう、

お爺さんの覗きんしゃったぎぃ、

「うまい、うまい。うまい、うまい」て、誰でん言うた。

お爺さんのヒョロッと顔出すとに、

「うまい、うまい。うまい、うまい」て、言うたて。

見んさったぎぃ、そけぇは、

狐たちが沢山【どっさい】輪になって、

赤松林の中【なき】ゃあ座ってね、

「今日は、化けごろしゅう」て言うて、化けごろしおったて。

そん時、お爺さんのヒョロッと顔出しんさったけん、

お爺さんに狐が化けたと思って、

「うまい、うまい。うまい、うまい」て、言うたちゅう、ねぇ。

「お爺さんに化けた。ほんな者の人間のごたっ」ち言【ゅ】うて、

「うまい、うまい。うまい、うまい」て、手たたいて言うた。

そいぎねぇ、何時【いつ】まってんお爺さんの覗きおんもんだから、

その若【わっ】か者【もん】も、

「なーん」ち言【っ】うて、顔ば出【じ】ゃあたぎぃ、

「うまい、うまい。うまい、うまい」て、言うたてぇ。

そいぎ二人、一時【いっとき】立って、

「お前【まい】さん達【たち】ゃ、何【なん】のあいおっとう」て、聞いたら、

「今日は、狐の化けごろたいなあ」

「あら、そう。私【あたい】どんは、人間よー」て。

「そいぎもう、仲間にならんで行こう」て、言うてから、

あの、その、鍋野をさして、テクテク、テクテク、山道ばあっかい、

川の周【ぐる】いを行たい、また山のあったいして、

お爺さんと二【ふ】人【たい】連れ若【わっ】か者【もん】は、楮ば売いぎゃ行たてぇ。

そいぎ鍋野は、今度はお爺さんの案内で無事着いて、

楮ば高【たこ】う売ッて、良か気色で酒どん飲んで、

また夕方帰って来よったら、まあーだ、狐達はまあーだ、

ガヤガヤ言いおっ。夕方まで楽しゅうねぇ、輪作って、もう、

「うまい、うまい。うまい、うまい」てして、おったちゅう。

そいぎ二人連れ、お爺さんと若か者とねぇ、

「まあーだ、あい。まあーだ、こいどま暇【ひま】持ちやっけん」て言うて、

ジーッと、そけぇ腰掛けて、煙草どんのんで、吸いよんしゃったぎぃ、

「馬ば高【たこ】う売って銭【ぜん】儲けしゅうかあ」て言うて、話しよって。そいぎぃ、

「誰【だい】が馬方さんになっかい」て、言うてねぇ、話しおったて。そいぎぃ。

「お前【まい】が馬方さんになったあ、良か塩梅【んびゃい】」ち言【ゅ】うて、

白の顔のこう長【なん】か、あの、狐さんに言いよった。

「そいぎぃ、なってみゅうだい」て言うてぎぃ、ヒョロッと、

クルクルクルって、三遍ばあっかい引っ繰い返って、

馬方さんになったちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

「よし、よし」

「そいぎぃ、馬には誰【だが】なっかあ」

「そいぎぃ、馬には太かもんがならじにゃあ」

「誰【だい】じゃい、太かもん、なれなれ」て言うて、しおった。

「お前【まい】、この、おうぼけとっても、

お前が馬には良か塩梅」て言うて、太かあの、

狐は馬になしたて。そして、

「高【たこ】う売ってから帰って来【く】っぎ良か」

「銭【ぜん】な貰【もろ】ゃあそこなうことなんばーい」ち言【ゅ】うて、

その馬方さんに言うて聞かせておったち、狐どもがさ。

そいぎぃ、そこまで聞いたい見たいしてからねぇ、

ははあ、若【わっ】か者【もん】な隣【とない】の嫁さんば取いえじおっけちんぼうさんとけぇ、

嫁さんばいっちょ世話してみゅうかにゃあ、と思うて、

「お前【まい】達、化けごろのそがん上手ない、

きれーか娘に化けゆっかのう」て、こう聞いた。そいぎぃ、

「任【まか】せて。任せて」て、言うたそう。

そうして、クリクリクルってしたら、

きれーいか若い娘さんになったちゅうもん。

「あらー、こりゃあ、上等」ち言【ゅ】うて、

「そいぎぃ、お前達良か-あ、油揚げどまもう、たらふく食べさすっ」て。

「ご馳走も、酒もいっぱい飲ますっ」て。

「あの、任せんか。そんかわり嫁さんになってくいて、

花嫁行列はしわゆうだーい【為シ得ヨウ。デキルダロウ】」て言うたぎぃ、

「ほらーあ、御手の物【もん】。しわゆっ【デキル】、しわゆっ」て、

もう狐どまあ上気嫌でさ。

「そいぎぃ、あの、お爺さんに任せんしゃい」て言った。そいぎぃ、

「お爺さんよいか、この若か者が、あの、

けちんぼうの長者の息子と仲間じゃっけん、

若か者が、仲立ちば似合うとっごたっ」て、言うてねぇ。その若か者がねぇ、

「そいぎぃ、けちんぼうさん家に行たて約束ばするけん、

お前【まい】達、うまいとこやってくれ」て、

こう頼んで、早速隣【となり】に行たて、

「おんちゃん、今日は良か話ば持って来たあ」と言うと、

「何【なん】じゃろうかあ」

「あんたん所【とこ】、まあーだ嫁さんな決まっとおんみゃあだい」

「そいがさい、来てのなかけんもう、

取らじ後家にいちなろう」て、けちんぼうの息子は言う。

「そぎゃん悲観しんてちゃ、良かーあ娘ば私が世話すっ」て、言うたぎぃ、

「ほんなこてやーあ」て。

「ほんなこてぇ」て。「任せござい」て、言うてねぇ。

「そいぎぃ、どぎゃんとじゃい見合いどんせんばにゃあ」と、

「見ぎゃ行くけん」て、けちんぼう長者さんは、言んさったて。

「任せござい。大丈夫さ。あいどん、見ぎゃあは行たてどうあろう。

良か女【おなご】ばい」て、こう言うて、帰ってねぇ。

今度は、また原っぱ辺【にき】来たぎぃ、二、三人おったに、

「あんた誰【だい】」ち。

「『家ば見ぎゃ来【く】っ』て、言うたばい。

『嫁さんば見ぎゃあ来っ』」て言うた。そいぎ狐どんが、

「こりゃあ、大事【ううごと】」て、言うてねぇ、

「あいば【ソウシタラ】、太うか家ば作らじにゃあ」ち言【ゅ】うて、

穴に、草ば寄せ集めて葺【ふき】かけたい、枝ば取ってきたいして、

こう、何【なん】じゃいしおったち。

そいぎ今度【こんだ】あ、けちんぼう長者さん達の、

きれいか着【き】物【もん】どん着て息子どん連れて見ぎゃ来【き】んしゃったぎぃ、

表【おもて】来てから、

「気色【非常ニ】に太か家なーい。お寺んごと太かえぇ。

うちん家よいか、ここん家が太かけん、分限者ばい」て、こう言うてねぇ。

あの、そのようにして、

「そいぎいっちょ、行こうかあ」ち言【ゅ】うて、座敷も立派い光っとったて。

「そいぎぃ、まず娘さんば見せてください」て、言うたら、

シオシオとして、目の真ん丸いして、

きれーいか娘が立【じっ】派【ぱ】か着物ば着て出て来たそう。

ありゃあ、家【うち】ゃあ間抜けんごとしといどん、

この娘は余【あんま】い良かごたっ。来てくりゅうかにゃあ、と思うて、

「その息子は、ほんに嫁さんば探しよいどん、

なかなか縁ば結ばじぃ、嫁さんば取らんばらん。

私の家もどぎゃんでん分限者ばんたあ。そいけん、

来てくんさんみゃあかなあ」て、言うたら、

「ない」ち、恥かしそうに言うたて。そいぎぃ、

「しめた。しめた」で、もうあとはそこそこにけちんぼう長者さん、帰んさったて。

そして隣【とない】の息子に、

「いっちょ頼む。ほんに気の利いた良か娘じゃったあ」て言う。

そうして、いよいよ嫁取りの段になって、

「なるだけ大きか魚ば持って来てくいござい。

もう、ここん辺【たい】の町にあっしこ【アルダケ。アル限リ】の料理屋は、

家【うち】来てくいござい」ち言【ゅ】うて、家【うっち】で料理ばさせてね、

嫁さんの来っとば待ったと。

もう日の大抵【たいちゃ】あ高【たこ】うなったいどん、

嫁さんの行列は来【こ】んよう。気色に遅【おそ】かよう。

息子はもう、袴どま絡【かり】ゃげて、表【おもて】さい出て見たい、

裏さい出て見たい、ほんに嫁さんな、まあーだよ。あのきれいか娘ば、

まいっちょ、早【はよ】う見たか、と思うて、オロオロしおっ。でも、なかなか来【こ】んて。

ところが、薄暗う、夕方遅うなった時に、

「もう、ソロソロ暗うないかけたねぇ」ちゅう時分に、

あの、どうか明いの、高【たか】張【は】い提灯のごたっとの見えてきたてじゃもん。

そうして、前ん方にお父ったんもお母さんも、

紋付どん着たい袴どんひゃあたとの来よんさったて。

「あん人達が間違【まちぎゃ】あなか。嫁入り行列」て言うて、

待っとんさったぎぃ、案の定、嫁入り行列じゃったて。

もう提灯つけんばごとなってから、お家【うち】に到着したそう。

そうしてねぇ、お座敷の上座に長々と挨拶【あいさつ】どんして座って。

そいもほんに上手じゃったちゅう、挨拶の仕方もさ。

そうしてもう、長々と丁寧に、

「家【うち】の娘は、何【なーん】もしつけとらんけんが、

あの、お宅のあぎゃんとに、あの、気に入んさっごと、

お家【うち】でしつけてくんさい」て、ほんにもう、

思うとっごと言んさった。そいぎぃ、

「もう、良かとば世話してもろうた」て、もう浮き浮きしてねぇ、

三々九度の盃もすんだぎぃ、台所ではガヤガヤ言いおんしゃって。

何【なん】じゃろうかにゃあ。

「あら、こけぇ、魚、鯛の魚ば置【え】ぇとったぎぃ、

無【の】うなっとっ。あら、

ここの煮じめ物【もん】な豆腐の油揚げから無【の】うなっとう。

ガンモドキもなか」ち言【ゅ】うて、

「まっちょ買【き】ゃあぎゃあ誰【だい】じゃいやらんばらん」ち言【ゅ】うて、

台所ではもう、ハラハラすっごたっことの、

「誰【だい】も来【こ】んじゃったのに無【の】うなった」ち言【ゅ】うて、心配じゃったて。

「困ったねぇ。そいぎぃ、どっちしろ、

あの、余【あんま】い嫁さんばっかい覗きぎゃ行きよったけん、

猫どんが来たろうだーい」て、言うてねぇ、お御馳走を間に合わせんさったて。

そぎゃんしてねぇ【ソウイウフウニシテネ】、座敷ではドンチャン騒ぎで、

もう賑やかなことじゃったてぇ。その隣【とない】の息子も酔っぱろうてね、

這【ほ】うて帰っごとして、夜も更【ふ】けて自分の家【うち】に帰ったて。

「そいぎもう、誰【だい】でん帰んさったもん。

あの、雨戸どん閉【しみ】ゅうだーい」ち言【ゅ】うて、

ガラガラガラって、二、三枚閉めてから、こうして見たぎぃ、

沢山【どっさい】狐の足跡のあってやもん。

まーだ気のつかんで家【うち】の娘さんな良か嫁さんと思うて、

「狐まで見ぎゃ来たばい」ち言【ゅ】うて、

雨戸ば、こう閉めんしゃったて。そうして、

「ほんに良か嫁さんやったない。こいでひと安心」ち言【ゅ】うて、

ユックイその床に入って寝んしゃったてぇ。

そうして、朝は遅【おそ】うまで全部【しっきゃ】あどめ寝過ぎて、

「聟どま、まあーだ起きんぎぃ、ちょっと覗いてみゅうかあ」ち言【ゅ】うて、

こうして覗きんしゃったぎぃ、太か尻尾ば出して、

狐の姿の嫁のそこん息子と寝とったげな。

「あら、こん畜生。狐のわやく【イタズラ】しとっ」ち言【ゅ】うて、

息子も起きて見たぎぃ、狐じゃった。

「あやー、冗談【じょうだん】のごと、狐じゃったあ」て言うたぎぃ、

狐はもう、障子でんひん破って、逃ぐっ。

「夕べの祝儀は、狐の嫁入りじゃったたい」ち言【ゅ】うて、

もうビックイして歯【は】痒【がい】かとと一緒になって、

隣の息子に怒鳴【どな】り込んで行ったて。そいぎぃ、

隣の息子はねぇ、頭ば冷【ひ】やあて、水枕つけてねぇ、出もせん咳ば、

「クックックッ」ち言【ゅ】うて、

「冗談【じょうたん】のごとう。ああーい」ち言【ゅ】うて、出て来て、

「何のことじゃろか。私は四、五日風引いて、

熱出【じ】ゃあて寝とったばーい」ち言【ゅ】うて、

その息子さんが出て来たちゅう。

「寝とったてや。そいどん、お前【まい】さんな、

うちに嫁さんば世話したっじゃなかとかにゃ」

「そいぎぃ、隣の者なそぎゃんこと夢にもしらんやったあ」て、

言うてねぇ、知らん振りしたて。

ところがねぇ、隣の爺さん達は、

その狐どんからお金ば貰うたと。お金ばねぇ。

「あんた達にゃ、たらふくご馳走すっけんが、

礼金ばくれじゃあ。木の葉じゃなかとばくいやいのう」て言うて、貰うて、

「確かめてみっけんない」ち言【ゅ】うて、確かめたら小判じゃったて。そいぎぃ、

「よし、よし」て、懐に入れて。そうして、作り病気して、

「ああ、四、五日もぎゃんして寝とっ」ち言【ゅ】うて、

隣【とない】の息子は寝て、お爺さんも口車を合わせて、

「こりゃあもう、

『死ん』ち言【ゅ】うて、寝とらいたあ」て、言うたて。

「狐から騙されたない、どぎゃんしゅんなかたい」て言うて、

けちんぼう長者さんは、「仕方なかーあ」て、

ションボイして帰んさいたて。

そいで、おしまいよ。

〔二三九 狐遊女【AT三二五】【類話】〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P219)

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