嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 皆、子供達は親孝行よねぇ。

だけど、こけぇはねぇ、親孝行の鳥がおったちゅう。

むかーしむかし。

山奥に、奥にねぇ、親鳥と小鳥が棲んどったてぇ。

そいぎぃ、その小鳥は、とてもわがままでさい、

親鳥が餌ば探して来【く】っぎぃ、さあ、競争して、

「ああ、欲しい、欲しい。欲しい、欲しい。

ちょうだい、ちょうだい」ち言【ゅ】うて、

いっちょでん残さじぃ、もう競争して食べてしみゃあおったちゅう。

そいどん、親鳥はいっちょんもう、惜しゅうもなし。

そうして、小さな鳥のために餌ば運びよったないどん、

親鳥はそのためもう、痩せ細っておったちゅう。

そうして、とうとう病気になってねぇ、

餌ば探しぎゃ行って、コトッと落ちて死んでしみゃあんしゃったて。

そいで、何時【いつ】まで待っても親が来【こ】んちゅうもんねぇ。

そいで、ほかの鳥たちもねぇ、

「ありゃあ、悪か鳥どんじゃったにゃあ。

あの鳥たちゃ親の身のことは思わじぃ、

『欲しか、欲しか』ち言【ゅ】うて、

親は餌探そうで一生懸命で、

とうとう早【はよ】う死んでしもうたねぇ。

あの奥山の小鳥は、悪か鳥やっけん誰【だい】でん遊ぶなよ」

て言うて、鳥の世界では、親鳥が小鳥に言うて聞かせよったて。

そいぎぃ、

その鳥は誰【だーい】も相手せんもんじゃっけん。

そいぎぃ、

「ここの所はもう、面白なかけん向こう辺【にき】さい移ろう」

て言うて、庭をソロッと

向こうの谷さ、移って行たて。

あいどん、谷じゃったけんねぇ、

雪のまあーだ解けじぃ、寒か風ばっかいで、

ほんに我慢のできんごとあったちゅう。

「こぎゃん所は、長【なご】うどんおられん。

早【はよ】う逃げ出そう」ち言【ゅ】うて、

「また他所【よそ】さん、緑の葉ば目かけて移ろうじゃないかあ」

て言うて。

その小鳥は、また飛うで行たちゅうもんねぇ。

そこに、木の茂っとったにゃあ、と思うて、おってみたいどん、

春から夏さんにかけて良かったもんねぇ。

秋になっぎぃ、パラパラ、パラパラ木の葉は散る。

木は裸になってしもうた。

「ああ、驚いた。折角、緑の木の茂っとっと思うとったぎぃ、

裸になったあ。今うち、

『逃げるが勝ち』」ち言【ゅ】うて、

また飛んで何処【どこ】まってん行ったいどんが、

もう冬じゃったけん、何処まで行っても枯れ枝ばっかい。

そうして、ああー、草臥れた。休もうと思うて、

鳥が枯れ枝に止まったぎぃ、

ポトーッち、ポッキリ枝の折れて、鳥はかっかえ【落チ】たちゅう。

そいで、この鳥はねぇ、

木の枝からまでも嫌われておると思うたとよう。

そいで、二羽の鳥はさ、

お母さんのいた頃は、ほんに良かったねぇて、

幾ら思っても、もうお母さんは死んでしまった後で、餌もなしぃ、

この鳥は誰【だい】からも相手にされんで、

可愛そうな最期になったそうよ。

終わり、こいまでです。

[四八 鳶不孝(類話)] (出典 蒲原タツエ媼の語る843話P16)

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